4月ははじまりの季節――。
幼稚園や保育園では進級式と入園式が行われ、子供達の新しい1年がはじまる。ホールに規則正しく並べられた小さな椅子にチョコンと座りながら、不安で涙ぐむ子やキョロキョロ常に周りを見渡す子供たち。様々な動きで緊張感を表現している。
子供の緊張は、往々にして周りの空気感から高まっていくことが多い。つまり、にこやかに子供達を見つめているようにみえる保護者も先生たちも、この日は緊張の1日ということなのだ。
そして、この日は自然体験を教える僕にとっても緊張の初日となる。子供達との自然体験は、まずは保護者向けの自然体験の説明会から始まる。
引きつりそうな顔、内臓から何かが飛び出そうな気持ちを抑えつつ、僕の話はスタートする。
幼児との自然体験を初めて今年で11年目。いろいろと仮説を立てながらも、手探り状態から始め、毎年先生からアンケートや振り返りの時間を持つことでやっと様々な効果が見えてきた。
自然体験で得られた効果は大きく分けて「心」「身体」「頭」の3つ。
心の部分では、主に「これでいいんだ!大丈夫だ!」という気持ちになれる自己肯定感や「やってみようかな?」と思える挑戦心、そして友達を助けたり、生き物を大切にするいたわりの心が芽生えた。そして、すぐに手や口を出さずに我慢できる自制心なども身についてきた。
身体の部分では、常に変化に富んだ地面を走りまわったりすることでボディーバランスが整い、綺麗な転び方や力の使い方が出来るようになった。その結果として、小学校での体育の成績が伸びたり、少年スポーツクラブなどで基礎能力が高いと評価された。
頭の部分では、日々変化する自然環境の中で遊びをクリエイトしていったり、小さな発見から大きな想像力を得られたという報告をいただいている。
ほかにも面白いところで、集中力が増したという報告などもあった。近年では脳科学的にも、バイオミミクリー的視点(生物を模倣することで新しい技術を生み出す学問のこと)でも、幼少期に自然の中で遊び、学んだ、「原体験」の重要さが訴えられてきている。
そんな効果が顕れ始めている「自然体験って、何をするの?」という質問をよく投げかけられる。実は「まったく特別なことはしていない」というのが正直な答え。もちろん、指導者的立場にある僕は「子供達の今をキャッチする」「先生ではなく仕掛け人になる」など色々な心構えはあるが、なによりも大切なのは「本気で遊ぶ」こと。全ては本気で遊ぶことから色々な“事件”が起き、後はその事件を子供達が自分達で体験することで感じ、学び、発見し、成長していくのである。