焚き火は明かりを灯したり、煮炊きをするなどの物理的機能だけではない。焚き火が心理面や精神面にもたらす、癒やしの効果にスポットを当て「なぜ人は焚き火に魅了されるのか」の謎をひもとく。
吉長成恭さん
焚き火を通して森林保全、世代間交流事業、森林文化と知恵の伝承などを提唱。『焚き火大全』(創森社)の著者。本業は脳神経内科医。
1.焚き火の前では誰しも心を解放してしまう
囲炉裏を囲んで家族で団らんするなど、人間は火を囲んでふれあいの場を作ってきた。火を囲むと会話が弾み、心も開きやすくなる。
2.大きな火を囲めば、仲間と高揚感を共有できる
キャンプファイヤーなど、大きな火を複数で囲むと、日中、元気に活動するときに必要な交換神経が優位になり、前向きになれる。
3.自分自身を振り返り、見つめ直すきっかけに
ひとりで焚き火をすると内省的になることが多い。火を目の前に置くことで、もうひとりの客観的な自分と会話をしている感覚になる。
4.温かい食事で体の中から元気を取り戻す
焚き火は煮炊きの大切なツール。食べて元気になれることを知っているので、焚き火を見ているだけでも、幸せな気持ちになれる。
5.脳がリセットされ、心と体に余裕をもたらす
瞑想をすると脳が活性化し、生産性が上がるといわれるが、焚き火をボーッと見つめていると、瞑想に似た状態に入ることができる。
焚き火の炎を見つめてしまうのはなぜ?
人類の祖先が火を使うことを知ったのは、600~700万年前といわれます。煮炊きや照明、暖をとるなど、物理的な用途はもちろん、「火を見つめること」も用途のひとつだったと考えられます。明るく熱を持つ、得体の知れない火に、知的好奇心を触発されたはずです。
常に形を変える炎の美しさ、薪の組み方、薪が燃えて熾火になる過程など、焚き火はアートとサイエンスが融合したオブジェだったのではないでしょうか。
炎は人間に「美しい」と感じる美意識や、「なぜ?」を喚起させる創造性を養ってきた要因のひとつ。現代に生きるわれわれのDNAにも、炎は「美しくて不思議」という感性が刻まれているので、つい、じっと見つめてしまうと思われます。
焚き火はコミュニケーションツール
焚き火や囲炉裏など、火を囲んで会話をすると、話に集中できる、リラックスできる、多様な価値観を受け入れられるなどの心理的効果があります。話の内容も散逸せず、知的で内容の深い対話になるのです。
また、焚き火の周りではケンカが起こりにくいともいわれます。科学的エビデンスは示せないのですが、幸せホルモンといわれるセロトニンやドーパミンが出ているせいかもしれません。円を囲むという平等感のあるポジショニングもありますが、焚き火を囲むと、世代や性別を超えて会話がはずむ、というのはみなさんも経験済みだと思います。焚き火は心のバリアフリー。コミュニケーションを図るには、最適ではないでしょうか。
炎の大きさで異なるヒーリング効果
キャンプファイヤーや、小正月のころに行なわれるどんど焼きなど、大きな炎を大人数で囲むと、前向きな気持ちになれます。豪快な炎を見ると、日中元気に活動するときに必要な自律神経の交感神経が優位になることが関係していると思われます。
反対に小さな焚き火の炎を見つめながら、薪がはぜる音や、せせらぎの音を聞いていると、気持ちが安らいできます。
じつは、人間が心地よいと感じる音や目に見える動きの多くは、「1/fゆらぎ」というリズムを持つといわれます。「1/fゆらぎ」と生体リズムが共鳴することで、休息の神経ともいわれる自律神経の副交感神経が優位になると考えられています。
こういったリラックスモードは、睡眠の導入にもなりますし、自分の考え方を深掘りするための時間にもなります。
焚き火の前にいるのは自分ひとりでも、焚き火を目の前に置くことで、火の向こう側にもうひとりの自分が現われ、自分自身と会話をしているような感覚になります。いうなれば、主観的な自分と客観的な自分の対話、でしょうか。自分を見つめ直す意味でも、ときにはひとりで焚き火を楽しむ時間を作ることも大切だと思います。
焚き火が脳に及ぼす影響とは?
ストレスの多い現代社会では、ストレス解消のために瞑想を取り入れている人も多いと思います。瞑想をするときには、眠るでも、集中するでもなく、覚醒しているのにボーッとしている状態を意図して作るわけですが、これは、焚き火をボーッと見つめている状態と非常によく似ているんです。
こういった状態になったあとは、脳が活性化され、生産性が上がることがわかっています。コンピューターでいうと、メモリをクリーンアップして、新しい情報が入りやすい状態にするということ。脳から雑念がなくなり、リセットされるのです。
焚き火ヒーリングに注目する施設が増えている
現代人の価値観は、「モノ消費からコト消費」へと変わってきています。心の豊かさを求める人たちがキャンプで自然に触れ、焚き火を囲んで仲間とコミュニケーションをとり、ときには自分を見つめ直す。焚き火がもたらすヒーリング効果も、今のキャンプ人気の要因のひとつだと思います。
近年は、焚き火を介してコミュニケーションの向上を目指す施設なども増えています。焚き火は人の心を解放してくれる、古くて新しいツールなのです。
焚き火ヒーリングを体験できる施設ベスト3
2020年9月OPEN!
火に集い語らうためのグループ向け宿泊施設
TAKIVIVA
人気のキャンプ場、『北軽井沢スウィートグラス』を運営する会社が、焚き火の社会的効用と可能性を活用するためにオープン。
問い合わせ先 0279(82)5445
日帰りも宿泊もOK!
焚き火を楽しむプランを提供
プライベート焚き火base Kokko
「1日1組限定」で焚き火ができる専用フィールド。ソロ焚き火講座も開催。日本焚火コミュニケーション協会の運営。
問い合わせ先 048(212)7774
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今春オープンのキャンプ場
TAKIVILLAGE
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問い合わせ先 080-4202-5834
眠れない夜には…
自宅で焚き火を楽しめるYou Tube動画
美しい焚き火動画が楽しめる動画チャンネル『Forest of wing』。8時間、3時間など長時間なので、流しっぱなしにしていると、いつの間にかウトウト…。
※構成/松村由美子 イラスト/近常奈央
(BE-PAL 2020年11月号より)