山道に入ってからも、軽快な足取りは変わらず。比較的平坦なところはダッシュで駆け抜けていく。ハイキングのはずなのに、これじゃトレイルランニングだ。道中を急ぐ必要なんてないのだし、周囲の風景にも目を向けて欲しくて、ときどき「あ、切り株があるよ!」、「お花、きれいだね!」と声をかける。それでようやくスピードダウン。切り株を見つければわざわざ乗り越え、ときどき小枝を拾い、傾いた状態の木の根を叩いてどんな音がするかを試す。
それでも体を動かしたい欲が勝り、気が付くとまた走っている。と、地面に這うように生えている根っこにつまずき、足をくじいてしまった。道端に座り込んで急にしゅんとする息子。痛めたところに手を当ててあげると、痛みも、悔しい気持ちも、少しずつ収まっていったようだ。幼いうちの小さなケガは、これからの長い人生において、自分の身を守るための糧になるはず。本当はちょっぴり心配だけれど、その不安を悟られないように「なあに、大丈夫!」と笑いながら声をかけるのだった。
落ち着いてきたところで、また歩き出す。ふと息子が立ち止まってしゃがんだ。どうしたのかと見てみたら、ユニークな形をした木片を手にしている。「これはオートコンパスね」と言って、尖った方をあちこちに向け、最後に進行方向を指して「あっちだ!」と教えてくれた。どうやら、進みたい道を自動的に示してくれる方位磁針のような道具、ということらしい。なるほどね。こういう自由な見立ては子供ならでは。大人が考えつかないようなことのオンパレードで面白い。