大きな樹のたもとから星空を見上げるのが好きだ。
僕が撮影に行く先々には、印象的な樹が立っていることが多い。
どうして樹に惹かれるのか、それを言葉にするのは難しい。でも、一人で行動することの多い僕の撮影行において、そこにある樹は、共に星空を見上げる友人のようなものだと思っている。その樹がある場所は、「そこに立つと、ただただホッとできる」……そんな場所だ。
僕には、そういったお気に入りの樹が各地にあるが、それは国内に限ったことではない。この写真に写っている樹は、西オーストラリアにある名もなき樹だ。
オーストラリアといえば、天の川を堪能するには絶好の地域だ。
僕たちの住む地球、つまり太陽系は、銀河系という無数の星の集まりの中に位置している。天の川は、その銀河系を“内側から見た姿”であり、地球上から見ると、淡い光の帯として確認することができる。その光芒には濃淡があり、一番濃い(=星数が多い)領域が、夏の代表的な星座である、いて座・さそり座付近にある。
もちろん、国内でもこの領域を見ることはできるが、南中高度が低く、好条件で見ることのできるシチュエーションはそう多くはない。
しかし、南半球に位置するオーストラリアに行くと、この領域が天頂(=頭の真上)付近まで昇る。それこそ、天の川の光を浴びるように見ることができるのだ。
そんなオーストラリアの満天の星の下、名もなき樹が佇んでいる。“彼”は、幾晩もの星夜を、ここでこうして過ごしてきた……、そのことを想うだけで、僕は樹々に畏敬の念を抱かずにはいられない。
国内にある近場の樹とは違い、海外の樹にはなかなか会いに行けない。でも時々、その樹のことが気になり、しばし遠い地に思いを馳せることがある。それは、久しく会っていない友人のことをふと思い出し、「あいつ、どうしてるかなぁ」と思い巡らす……、あの感覚にちょっと似ている。
星景写真家・武井伸吾
「星と人とのつながり」をテーマに、星景写真(星空のある風景写真)を撮影。著書に写真集『星空を見上げて』(ピエ・ブックス)など。
http://takeishingo.com/
武井さんの前回のお話はこちらへ。