外呑みの究極の形!?「炭火でお燗酒」
休日の夕方。刻々と変わりゆく空の色を眺めながらひとり飲む一杯は、なにものにも代え難いものがある。ビールやレモンサワー、ハイボールをグビグビっとあおるのもいいけれど、控えめに熾(おこ)した炭火で旨口(うまくち)の純米酒の燗(かん)をつけ、炙(あぶ)った肴(さかな)を口にしながら心ゆくまでひとり酒を楽しむ、そんなゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがだろう。
おうちの庭先でも楽しめるミニマムな”炉ばた”
煙も炎も匂いも控えめなのに火力が強く扱いやすいのが炭火の長所。しかも七輪やコンパクトな焚き火台を使ったミニマムな”炉ばた”なら、庭先やバーベキュー可能な公園、直火禁止のキャンプ場などでもすぐに”開店”することができる(※)。
(※)キャンプ場や公園、河川敷などでの火気の扱いについては管理者に確認のこと
炭火を熾す手間も酒の肴になる
「ひとり炉ばた」を楽しむ際は国産のナラ材などの広葉樹を使った黒炭(※)を選びたい。2〜3個の黒炭で望む火力を得るにはそれなりに手がかかるが、ちびりちびりとお燗酒を楽しむ”呑み助”にとってはそれ自体が楽しみのひとつとなる。ひとり酒にありがちな手持ち無沙汰でつい盃に手が伸びる(=飲みすぎる)ことを防ぐペースメーカー的な役割もあり、一石二鳥の酒の肴となる。
(※)焼き鳥やうなぎの調理でおなじみの備長炭(びんちょうたん:白炭)は、着火に時間がかかるうえ火持ちが良すぎて使い切るのが難しい。「ひとり炉ばた」で使うには着火性や火力、火持ちのバランスが良い黒炭がおすすめだ
まずは火を熾しながらの一杯
炭火を熾す際には着火剤を使うのが手軽だが、油脂やアルコールなどを使用しているものが多く、独特の匂いが鼻につく。そこで今回は昔ながらの「火熾し」(ひおこし)を使ってみた。ガスの強火で待つこと5分。その間に温める前のお酒を一杯。常温での味わいを覚えておこう。
さまざまな温度でお燗を楽しむ
アルコールは体温に近い温度で吸収されやすくなるため、冷たいお酒は飲んでから温度が上がり吸収される(酔いを感じる)までにタイムラグがある。口あたりが良いこともあり、つい飲みすぎてしまうことも少なくない。お燗酒なら飲んですぐに吸収されるので、酔いの感覚がつかみやすく、カラダに優しい飲み方といえる。
さらに日本酒は温度が変わると味わいも変化する。温度が上がることで冷温時には隠れていた味わいや香りが引き出されるのだ。お酒が開く(味が開く、香りが開く)、ふくらむ、柔らかくなるなどと表現されるように、同じお酒でも温度の違いでこんなにも変わるものなのかと驚くことが多い。温度計(おかんメーター)を参考に、さまざまな温度での味わいを試しつつ、そのお酒が一番おいしいと感じる温度を見つけよう。
湯せんのお湯も役に立つ
お燗酒に独特のツンとした香りが苦手な人は低めの温度の「ぬる燗」や、一度「熱(あつ)燗」にしたものを冷まして味わってみるといい(燗冷まし)。湯せんに使ったお湯は「和(やわ)らぎ水」(いわゆるチェイサー)としてお酒と一緒に飲むと二日酔いになりにくい。またお燗したお酒が濃く感じる場合は、酒たんぽにこのお湯を少量加えると飲みやすくなる。
また、香りが強いものなどお燗に向かない日本酒もある。「純米」「生酛(きもと)」「うすにごり」といった製法や、酒米の種類、蔵元によっても酒質が異なっている。迷ったらお酒屋さんで「お燗で楽しみたい」ことや「好みのタイプ」を伝え、相談に乗ってもらおう。
控えめな炭火には「炙る」「炒る」がちょうどいい
お酒がぬるめの燗ならば、肴は炙ったイカでいい。昭和なおじさんのベタなチョイスではあるけれど、そこはちょいとヒネって「丸干しほたるいか」と正統派の「たたみいわし」を本日の肴に選んでみた。
炭火は遠赤外線で調理するため表面はパリッと、内部はふっくらジューシーに仕上がる。ガスの直火は燃焼時に水分が発生するためこうはいかないし、焚き火の煤は素材の味を台無しにしてしまう。シンプルな肴ほど炭火の実力を発揮できるのだ。
のんびり炭火であぶっては食べる「ひとり炉ばた」開店
ほたるいかは丸干し、つまりワタの部分も丸ごと味わえるため、そのまま噛みしめればほろ苦さがあり、軽く炙るとガツンと苦味が来る。さらに火を通すと苦味が薄れて旨味が強くなる。たたみいわしも炙り方次第で香りと食感がガラリと変わる。そして手元にお燗酒。ひとつの肴が見せるさまざまな味わいと温度を変えたお酒のマッチング、その奥深い世界を探ってみよう。炙ってはグビリ、さらにお酒を温めてはひとかじり。試行錯誤の愉(たの)しさも「ひとり炉ばた」ならではの魅力なのだ。
そして冒頭の写真にある油揚げもまた然り。仕上げに数滴、醤油を垂らすタイミングを見極めて、その瞬間に立てる音と香りでまず一杯。次にカリカリの表面にガブリと食らいつきつつハフハフしながらまた一杯。極楽である。
「”呑み助”にとっては多少の手間も肴となる」とここまで繰り返し書いてきたが、その究極の形が炭火で炒る銀杏だ。灰を被って少し火力が落ちた頃合いを見計らい、小さめのスキレットを載せまんべんなく火が通るように辛抱強く銀杏を炒る。コロコロカラカラとスキレットを動かす間に冷めたお酒を温め直し、炒りたての銀杏をパキッと割ってホクホクを噛み締める。そこにまた一杯。生の落花生が手に入れば、殻ごと、剥いた実、それぞれを炒ってみるのも面白そうだ。
「ひとり炉ばた」は”仕入れ”から”焼き方”、”お燗番”、そして”お客”とひとりで何役もこなさなければならないけれど、ソロ登山や自転車のソロライドと同じように、全てを自分のペースで進められるなんとも贅沢な時間の過ごし方なのかもしれない。
手軽に”炉ばた”を楽しむなら成型炭もアリ
さて、酔いがまわる前にひとつ実用的な情報を。自転車キャンプでガスやガソリン、アルコール、流木や倒木などさまざまな燃料を使ってきたけれど、個人的にあまり縁のなかった「成型炭」を見直すきっかけになったのが”ロゴス”のヤシガラ成型炭「エコココロゴス・ミニラウンドストーブ」だ。
大きさは、直径7.5cm、高さ3.5cm。重さは約150g。1個で30〜45分ほど燃焼する。自転車用のフレームバッグやサドルバッグの隙間にいくつか分散して収納できるコンパクトさが嬉しい。風情という点ではイマイチかもしれないが、黒炭の着火剤としても使えるし、使い終わればまさに「灰塵(かいじん)に帰す」のも気に入っている。
着火は簡単。持ち手と点火口が離れた”点火棒”タイプのライターで1か所を15秒ほど加熱すればいい。全面に火が回り火力が安定するまで1〜2分。その間、植物性の油を燃やしたような匂いが若干するものの、他の着火材のような強い匂いがしないのもいい。
炭火の良さを見直そう
作家の田淵義雄氏いわく「焚き火は森のテレビジョン」。ならば控えめの炭火はトランジスタラジオのようなものかもしれない。ひょいと持ち出し、一度点火すれば傍らでしばらくの間火力とぬくもりを提供してくれる。装備が限られるキャンプや焚き火禁止の場所などで手軽に「ひとり炉ばた」を楽しむ際には欠かすことができない相棒なのである。
参考リンク
ロゴス ヤシガラ成型炭「エコココロゴス・ミニラウンドストーブ」
http://www.logos.ne.jp/special/01/
happeaceflowerさんの記事も参考に!
『1分で着火!バーベキュー初心者におすすめ「エコココロゴス・ラウンドストーブ」を徹底解説』
https://www.bepal.net/gear/fire-starting/109048