登山でクマに遭遇しないために
クマは日本国内における最大の哺乳類。北海道にはヒグマがいて、本州と四国にはツキノワグマが生息しています(※)。
クマは山奥に暮らしている動物です。私たち登山者は彼らの棲み家に好んで足を踏み入れている訳ですから、クマに出会う確率は下界で暮らしているよりもグッと高くなります。
でも、登山は楽しみたいし、可能な限りクマに遭遇したくない。そして、万が一出会ったときのために、襲われずに助かる方法を学んでおきたいですよね。
そこで、『山でクマに会う方法』(山と溪谷社)、『クマが人を襲うとき』(つり人社)など、クマに関する専門書を何冊も上梓してきたフリーのクマ研究家、米田一彦先生に、クマに遭遇する確率を下げる方法と、出会ったときに取るべき行動を教えてもらいました!
※九州は2012年に環境省によって絶滅が宣言され、現在クマは生息していないとされています
※特別な記述がない場合、「クマ」は「ツキノワグマ」をさします
クマとの遭遇に季節は関係ない
よく、秋になるとクマに遭遇する確率が高くなるといわれます。しかし、春と夏に遭遇しない確証はなく、中には冬眠しないクマもいるのだとか。
「山を歩いていると、たとえば麓が夏でも山は秋の粧(よそおい)のこともあり、いろんな季節でクマに出くわします。そして、クマは季節ごとに居場所があって、山の中でバラバラに暮らしているので、どこかで遭遇する可能性は大いにあるのです」。
そもそも山の中はクマの棲み家なのですから、どの季節でも遭遇する可能性があると考えていた方が良さそうです。
「逆に、9月でも森林限界にクマがいることを、良く知っておかないといけないですね。8月下旬から高山植物の一種、ガンコウランやクロウスゴの実がなり、それを求めて山のてっぺんに登ってくる一群がいる。登山では季節を問わずにクマとの接触事故はあると考えておいたほうが良いでしょう」。
さらに、これからは冬も注意が必要になるかもしれないと米田先生は言います。
「暖冬だった1994年や、2007年の1・2月にも、理由は定かではないがクマの出没が相次ぎました。たとえば、栄養状態が良ければクマは冬眠しない可能性があります。こういったクマは”富栄養の穴持たず”と呼ばれていて、寒さに耐えることができる。さらに今後、暖冬傾向が続けば、冬もクマは出没するだろうし、被害期間が長くなる可能性もありますね」。
話を聞いて、季節を問わず注意が必要なことは分かりました。とはいっても、私たちは山が好きだから、登山をやめる選択肢を選ぶ人は少ないでしょう。
そこで、次はクマに遭遇する確率を下げる方法を紹介します。
クマと遭遇する確率を下げる2つの方法
1.出没情報がある山域を避ける
クマの出没情報はテレビやネットニュースなどでも見かけますし、目的の山域がある県や市町村のホームページでも知ることができます。
「クマに会わないのがいちばんですから、目的の山域にクマが出ている情報があるか知ったうえで山に入ることが大事です」。
クマの出没情報が頻繁に聞かれている山域には、そもそも近づかないのが肝要です。
2.“高い音が出る”クマ鈴を鳴らす
クマ鈴はもっとも知名度が高いクマ対策グッズのひとつ。米田先生は過去に、その効果を確かめるべく、現れたクマに鈴を鳴らすとどんな反応をするか、ビデオで映像に収めたことがあると言います。その結果、中には効果がないクマ鈴があったそうです。
「神社にある鐘のように、ガラガラガラと音がする鈴は全然効果がありませんでした。クマには聞こえてないみたいなんですよね。人間の存在をクマに知らせるには、チリーンチリーンと高い音が鳴る鈴がいちばんいい」。
これは初耳! クマ鈴を買う人は店頭で音色をチェックしましょう。
ちなみに、人間の存在をクマに音で知らせる道具は他にもあって、ホイッスルやラジオを使う人もいます。
「ホイッスルは吹きながら山に登ると息が切れるので、オススメしません。ラジオを使ったこともありますが、自分の意識が散漫になって、クマが近くにいても音が聞こえない場合が。だからラジオも使うこともやめました」。
どちらも実体験に基づくリアルな話。事前対策としては、甲高い音が鳴るクマ鈴を持ち歩くのが良さそうです。
確率を下げる方法は意外と少ない…
遭遇する確率を下げるには、臭いの強い食べ物を持ち歩かない、持ち歩くときは臭いが出ないように注意することも大切です。最近は登山の行動食に、コンビニのおにぎりや菓子パンなどを持参する人が多いと思いますが、たとえばサラミやビーフジャーキーなど、脂っこい臭いがするものを用意するときは、臭いが漏れないように梱包に気を配りましょう。
実は、クマとの遭遇を下げる方法は、これまで紹介してきた「出没情報がある山域を避ける」「“高い音が出る”クマ鈴を鳴らす」、そして「食べ物の臭いに注意する」しかありません。
それなのに、すべて実践してもクマに遭遇する確率はゼロにならないのが現実です。では、万が一出会ってしまったらどうしたらいいのか。遭遇したときの対処法も教えて頂きました。
(次回に続きます!)
教えてくれた人日本ツキノワグマ研究所 米田一彦先生
1948年生まれ。青森県出身。秋田県町生活環境部自然保護課を1986年に退職した後、フリーのクマ研究家として活躍。島根県、山口県、鳥取県からの委託や、環境省のもとでツキノワグマの調査を行ってきた。著書に『山でクマに会う方法』(山と溪谷社)、『熊が人を襲うとき』(つり人社)などがある。