年配の方は「あ、東京砂漠ね。内山田洋とクール・ファイブの」と思うかもしれないが、そうではない。日本で唯一、国土地理院作成の地図に砂漠と表記された場所が、東京の伊豆大島にあるのだ。
場所は島の中央にそびえる三原山の東側。火山の噴火で噴出した小石が積もった大地が、“裏砂漠”である。
この砂漠は誰でも立ち入ることができる。車両進入禁止でもない。砂漠を走る、という4WDのオーナーにとって憧れの世界が東京で体験できてしまうのだが、残念ながら伊豆大島は車両を運搬できるフェリーが就航していない。
ただし貨物船での運搬は可能で、手間と時間とお金はかかるけど、海外に出かけなくても自分のクルマで砂漠を走る夢が実現できるのである。
ぼくは大好きな4WD、走破性に優れ、運搬費も安く済む軽自動車のジムニーを伊豆大島に運び、砂漠の旅に出た。
まずは周回道路を走り、島の東側からアプローチする。裏砂漠の入り口は大きな段差があって「レンタカーは進入できません」と書かれてある。
ジムニーを持ち込んだぼくは「ムフフ」の気分である。
砂漠とはいえ、軽石のような細かい溶岩の粒に覆われた大地。沙漠と表現したほうが適切かもしれない。轍わだちもしっかりしていて2WDでも走れるが、4WDにシフト。
4WDは悪路を走破する能力に優れているが、魅力はそれだけではない。4WDは自然に優しいクルマだとぼくは思っている。2WDは走行時に駆動輪が地表面を掻いてしまうが、4つのタイヤが駆動する4WDは大地をしっかりとグリップして動くから地表面のダメージが少ない。軽量なジムニーならなおさらだ。優しく、かつ易しく自然の懐に入り込めるスーパーマシンなのである。
スピードは出さず、4つのタイヤが砂漠をグリップしていることを意識して、ゆっくりと滑らかに奥へと進んだ。
ぼくはこれまで5回くらい裏砂漠に来ているが、何度来てもここは特別な場所だと感じる。緑はなく、青い空があって、黒い砂漠が広がって、その向こうに太平洋の雄大な海原がある。地球誕生を感じさせる気宇壮大な風景である。
おおいに感動したが、『東京砂漠』の歌がつい頭に浮かんでしまい、苦笑した。
砂漠、火山、太平洋原始の自然が残る島
地球の息吹が感じられる島の風景
地元でバウムクーヘンと呼ばれる地層大切断面が周回道路
沿いにある。じつに美しい曲線。さすがはジオパークである。
雨が多い伊豆大島なのに、砂漠だから保水能力がない。まともな植物が生育できない特殊な環境なのである。
島を旅することで復興に貢献したい
伊豆大島にクルマを輸送するには東海汽船の辰巳営業所(TEL 03-5569-3700)に車両を持ち込んで手続きをする。伊豆大島には翌日以降到着。予約はできないので、余裕ある日程を組む必要がある。軽自動車で片道23,752円。
活火山三原山を擁する伊豆大島はジオパークに認定されており、アウトドアのスポット、見所も多い島だ。集落は島の西側にあり、裏砂漠のある東側は人が住んでいない。砂漠の名にふさわしい環境といえるかもしれない。
■乗ったクルマ
アピオ/ジムニーコンプリートカー TSB
ジムニーJB23をベースに足回りを強化。ノーマルに比べて車高は45㎜アップしており、悪路でも安心して走破できる。ヨシムラのマフラーでドライブフィーリングも良好。
■紀行作家&バックパッカー
シェルパ斉藤さん(53歳)
バックパッカーだけど、じつはクルマも大好き。これまで所有したクルマは15台。うち4WDはジムニー、ランクル40、レオーネなど。現在所有の4WDはホンダ/バモス ホビオ。