前回は、災害に備えて常に持ち歩きたいアイテムを紹介しました。しかし、出先で被災して何とか自宅までは戻ったものの、そこで生活できない状況もあり得ます。
引き続き「災害時に役立つアウトドアギア」について教えてくれる、石井スポーツ登山学校の事務局長を務める東秀訓(ひがし・ひでのり)さんは、阪神・淡路大震災で被災した当時をこう振り返ります。
「住んでいた建物は崩れることなく形をとどめていたのですが、支柱がダメージを受けていたので、修理が済むまで避難生活を余儀なくされました。仕方なく必要と思われる道具を同じ建物に住む人々と手分けしながら運び出し、避難所になっていた地域の体育館に向かったんです」。
大勢の被災者と空間を共有する避難所では、どんなアウトドアギアが役立ったのでしょうか。詳しく話を聞きました。
避難生活ではキャンプ道具が役に立つ
「避難所に着くと毛布を一枚渡されて、仕切りも区画もないだだっぴろい体育館での避難生活がはじまりました。ここで役に立ったのが、テントや寝袋といったキャンプ道具たちです」。
当時、実際に役立った道具を4つ教えてもらいました。
1.テントマット(生活空間を確保して底冷えを防ぐ)
2.テント(プライベート空間を確保する)
3.スリーピングマット&寝袋(快適な寝床を作る)
4.水筒(給水車から手に入る水を汲む)
それぞれ詳しく紹介します!
1.テントマット|避難所で真っ先に役立った快適グッズ
今回紹介するアイテムの中で、まず用意すべきと勧めるのがテントマット。これは、断熱性のある薄いシートで、大きさはさまざま。アウトドアではテントの中に敷いて使います。
「毛布を一枚渡されて、あとは自由にしてくださいといった感じだったので、広い体育館の中で一体どこで過ごせばいいのかも分かりませんでした。そのとき役立ったのが、このテントマット。広げることで、居住スペースを明確にできたんです」。
広げたテントマットの上に部屋から持ち出した荷物を置いて、とりあえず生活するだけの面積を確保した東さん。さらにテントマットがあったおかげで、底冷えも防げたと言います。
「毛布一枚では床から伝わってくる寒さを防げません。断熱性のあるテントマットのおかげで、比較的寒さを気にせずに行動できるスペースも同時に手に入りました」。
シートを敷くだけで居住スペースを確保できる様子は、一度でも花見や運動会などで場所取りを経験したことがある方なら、容易に想像できるでしょう。これは確かに備えておきたいアイテムです。
2.テント|自立式で遮光性の高いものがベスト
「当時の体育館には仕切りがなかったので、プライベート空間がゼロでした。男性なら何も気にならないかもしれませんが、女性の場合はそうもいきません。人前で汚れた体を拭くだけでも抵抗があり、中には人の目が気になって眠れないという方もいました」。
そこで、テントマットの次に役立ったアイテムが、設営するだけでプライベート空間を確保できるテントだと言います。
「もちろん体育館の中には女性用の更衣室があり、そこで体を拭いたり着替えたりができました。でも、体の不自由な高齢の方は、そこまで移動するのも一苦労。すぐ近くにプライベート空間があることが大切なんです」。
おすすめのモデルも聞きました。
「災害時は車が使えない状況も考えられるので、人力で持ち運べる軽量でコンパクトな登山用テントがおすすめです。そして、室内ではペグが使えないので、設営方法は自立式一択。広さは1人用だと窮屈に感じることもあるので、2人用が最適です」。
最近は生地が透けるほど軽量なモデルもありますが、プライベート空間を確保するうえでは、もちろん不向き。日中もテントの中で生活することを想像して、遮光性に優れるモデルから検討するといいと言います。
3.スリーピングマット&寝袋|クローズドセルとダウンモデルがいい
眠るとき、硬い床に敷いた毛布一枚だけでは寝苦しくなることが容易に想像できます。そこで役立つのがスリーピングマットです。
「おすすめは、発泡素材から作られるクローズドセルのタイプ。エアマットと違い、パンクなどで故障する心配がありません」。
布団の役目を果たす寝袋も備えておくといいと言います。
「避難所で寝袋が濡れる状況は考えづらいので、小さく収納でき、保温力の割に重量を軽くできるダウンを封入したモデルがおすすめです」。
ただし、慣れていない人は寝袋に入ると窮屈に感じることがあるのだとか。
「そこでお勧めなのがモンベルの商品です。これは縫製糸にゴムが使われていているので、寝袋に入ったまま胡坐がかけるほど伸縮性があります。体を動かせるゆとりがあるので、はじめて寝袋を使う方でも比較的ストレスなく眠れるでしょう」。
4.水筒|小さくなるソフトボトルからチョイス
被災直後は断水による水が使えない生活を余儀なくされましたが、運よく当日の夜には給水車が避難所に到着。水の心配からは解放されたと言います。
「給水車から手に入る水を汲むために欠かせないのが水筒です。使わないときは小さく畳めるソフトボトルのタイプがおすすめ。忘れずに準備しましょう」。
水と同時に、食べ物を確保できたのか気になります。聞くと、これも比較的早くから配給がはじまり、飢えで苦しむことはなかったそうです。
自宅周辺の避難場所の設備を確認してから準備しよう!
ここで紹介したアイテムは、東さんのリアルな避難生活で役立ったものばかり。ただし、中には高価なアイテムもあり、買い揃えることに躊躇してしまう方もいるでしょう。
そこで確かめたいのが、自宅周辺にある避難所の設備について。たとえば避難所にしっかり仕切りを立ててプライベート空間を確保できる準備があれば、わざわざテントを購入する必要はないかもしれません。それぞれの避難所の状況に合わせて、必要と思われるものから揃えてみてはいかがでしょう。
「道具を買うときは、一緒に避難生活を送るメンバーの中で、非日常の生活に慣れていない人が快適に感じるかどうかを考えましょう。厳しい環境で可能な限り快適なキャンプを行う感覚でアイテムを揃えるといいですよ」。
次回は、災害現場で役立つ、その他のアウトドアギアを紹介します!
教えてくれた人
石井スポーツ登山学校 事務局長
東秀訓(ひがし・ひでのり)さん
高校の国語教師、国立登山研修所職員を経て、現在は石井スポーツ登山学校の事務局長を務める。教員時代から山に登り続け、ヒマラヤの6000m峰や8000m峰の登頂経験を持つ。兵庫県の高校で教鞭を執っていた当時、阪神・淡路大震災が発生。自宅での生活が困難になり、避難生活を体験した。
石井スポーツ登山学校:山を愛する全ての方々が、「より安全に」「より快適に」登山を楽しんでいただくための学校。登山道具の使い方など、様々な講座を開講中。
https://www.ici-sports.com/climbingschool/
今回取材した商品は、石井スポーツ店舗にて実際に取り扱い中。店舗により在庫状況が異なるため、最寄りの店舗にお問い合わせ下さい。
石井スポーツ|店舗一覧
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今回取材した店舗|石井スポーツ マロニエゲート銀座店
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石井スポーツ|防災アウトドア
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