災害時は普段の生活を送ることが困難になる、非日常の状況です。そしてそれは、登山やキャンプといったアウトドアアクティビティーにも、同じことがいえます。
あえて非日常の世界に飛び込み、そこで生活するのがアウトドアアクティビティー。そのため、アウトドアでの生活を快適にしてくれるアウトドアギアたちは、すべからく災害時に役立つと言っても過言ではありません。
前回は避難生活、前々回は被災直後に役立つ道具を紹介してきましたが、今回は災害時に持っていると役立つその他のアウトドアギアを、さまざまな視点から紹介します。
引き続き、登山用品専門店石井スポーツが主催する登山学校の事務局長を務める東秀訓(ひがし・ひでのり)さんに話を聞きました。
役立たない道具はないほど、アウトドアギアは災害時に活躍する
阪神・淡路大震災を経験した東さんは、さまざまな災害現場で役立つアウトドアギアの姿を目にしてきました。
「砂埃が舞う街中ではレインウエアが重宝し、ガラス片などが飛び散る家の中では登山靴を持っていたおかげで行動できたという人の話を聞きました。中にはピッケルを使って瓦礫の中から娘を救出した人もいるほどです」。
ここでは災害時に役立つアイテムを4つピックアップして紹介します。
1.ウェア(レインウエアやベースレイヤー)
2.靴(厚底ソールで足裏を護る)
3.バックパック(ショルダーストラップで背負えるものがおすすめ)
4.その他(ヘルメット、ツールキット、食料など)
1.ウェア|雨具でホコリを防ぎ、天然の防臭効果で長期避難生活を耐える
「災害後の被災地は、あちこちで砂埃が舞う、決して快適とは言えない環境でした。そこで瓦礫などを片づけないといけないのですが、意外と役立ったのがレインウエアです。避難生活では水が貴重なので、衣服を頻繁に洗えません。レインウエアを上に羽織ると、着ている服を汚れから防ぐことができたんです」。
最近は軽量コンパクトなものも選べるので、余裕があれば普段から持ち歩いてもいいかもしれません。
「避難生活では衣類を洗濯できないだけでなく、一枚の服で何日も過ごさないといけない状況もあり得ます。私は3~4日で着替えることができたのですが、知り合いの中には1ヶ月以上も着替えることができずに避難生活を送る人もいました」。
そこで勧めるのが、素材にウールを使ったベースレイヤーです。
「ウールは天然の防臭効果で、いやな臭いの発生を防いでくれます。また、速乾性がある商品は洗濯後数時間で乾いてくれるので、災害時に重宝します。シャツの下に着ることができるので、普段から着用してみてはいかがでしょう」。
その他に、防寒着としてフリースもおすすめ。最近は十分な保温力を備えながらかさ張らないモデルが多いと言います。
2.靴|ビジネスシーンで使えるデザインから検討してみよう
冒頭で紹介したように、ガラス片などが飛び散る災害現場を歩くとき、登山靴が役立ちます。たとえばスニーカーでは瓦礫がソールを突き破る可能性がありますが、厚くて頑丈なソールを備える登山靴なら、その心配がありません。
「ハイカットの登山靴は普段使いに不向きですが、ローカットのハイキングシューズなら日常使いも可能でしょう。最近はビジネスシーンでも使えるデザインの靴が増えてきました。実際、このような靴を購入していくサラリーマンの方もいらっしゃいます」。
被災現場から自宅や避難場所が離れていた場合、長時間歩くことを考えると歩行性に優れるハイキングシューズが有利になるのは言うに及ばず。普段から履いているのがベストですが、いざというときに使えるように、仕事場や自宅に備えておくといいかもしれません。
3.バックパック|ビジネスで使いやすく背負えるタイプが◎
靴を歩行性に優れるモデルに履き替えても、持っている鞄に取っ手しかなかったら、長時間の行動を強いられる状況では不便です。
「ビジネスバッグのようなデザインで、ショルダーハーネスで背負えるタイプの鞄があります。ショルダーハーネスが不要な時は背面パネルの内側に収納できるので、ビジネスシーンでも違和感なく使えるでしょう」。
それとは別に、避難所へ向かうときに必要な道具をパッキングする、バックパックのおすすめも教えてもらいました。
「たとえば写真の商品のように、防水素材で作られたバックパックを用意すると、雨のときに荷物が濡れる心配がありません。容量は30L以上がおすすめです」。
もし、すでにバックパックを持っていれば、バックパックカバーや大きなドライサックが荷物を濡れから防ぐのに有用。持っていなければ購入を検討してもいいかもしれません。
4.その他|ヘルメットやハサミ、食べ物も要チェック
近年、北アルプスなどで着用が推奨されているヘルメット。落下物から頭部を護ってくれる装備であるため、持っていれば災害時にも役立ちます。
緊急時に備えるアイテムに、ナイフもよく耳にします。しかし、実際にはナイフよりもハサミの方が使いやすいのだとか。爪切りが付いているモデルは、より便利といえそうです。
食料では長期保存できるものを備蓄しておくのが基本。
「主食になるご飯タイプの保存食には、アルファ化米を使うものと、フリーズドライ製法から作られるものの2種類があります。その違いは乾燥の仕方。
アルファ化米が炊いたご飯を熱風で乾燥させるのに対して、フリーズドライ製法はその名の通り冷凍によって乾燥させるのが特長です」。
いずれも熱湯、もしくは水からも作ることが可能で、フリーズドライの方が数分待つだけで食べられるようになりますが、食べ応えはアルファ化米の方が勝るとか。さまざまな味があるので、一度食べ比べてみてはいかがでしょう。
楽しみながら道具を揃えて、同時に使い方もマスターしよう!
3回に渡り災害時に役立つアウトドアギアを紹介してきましたが、普段からキャンプや登山を楽しんでいる方なら、すでに持っている道具が多かったのではないでしょうか。ただし、そうでない方からすると、すべてを揃えるのは多大な出費。
そこで、せっかくならアウトドアアクティビティーを楽しみながら、徐々に役立つアイテムを揃えてみてはいかがでしょう。道具は扱えてこそ役立つものなので、遊びながら使い方を覚えた方が効率的ともいえます。さらに、災害時はアイテムだけでなく、非日常を耐えるタフな精神も欠かせません。
アウトドアアクティビティーを通じて、災害時でも慌てず落ち着いて行動できる精神を養いつつ、役立つ道具を揃えましょう!
教えてくれた人
石井スポーツ登山学校 事務局長
東秀訓(ひがし・ひでのり)さん
高校の国語教師、国立登山研修所職員を経て、現在は石井スポーツ登山学校の事務局長を務める。教員時代から山に登り続け、ヒマラヤの6000m峰や8000m峰の登頂経験を持つ。兵庫県の高校で教鞭を執っていた当時、阪神・淡路大震災が発生。自宅での生活が困難になり、避難所生活を体験した。
石井スポーツ登山学校:山を愛する全ての方々が、「より安全に」「より快適に」登山を楽しんでいただくための学校。登山道具の使い方など、様々な講座を開講中。
https://www.ici-sports.com/climbingschool/
今回取材した商品は、石井スポーツ店舗にて実際に取り扱い中。店舗により在庫状況が異なるため、最寄りの店舗にお問い合わせ下さい。
石井スポーツ|店舗一覧
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今回取材した店舗|石井スポーツ マロニエゲート銀座店
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石井スポーツ|防災アウトドア
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