団地の中にある幼稚園の年長さんと自然遊びをするこの日は、空は薄灰色で強い風が吹いていた。時々やってくる突風は、木々を大きく揺らすほどだ。
こんな日は、危ないからといって室内遊びをしている場合じゃない。
この風を子供達と一緒に体感できたら間違いなく面白いだろう。僕はこの日の予定を大幅に変更して、幼稚園の子供達が運動会の時に使っているというパラシュートを借りて子供達と一緒に外へ飛び出した。
これを使って、見えない風をつかまえるのだ。
はじめに、風がどこからどこに吹いているかを探す。芝生をむしって落としてみたり、女の子の髪の毛の動きを見たりと、色々な方法を試みた。
一番のアイデア賞は、唾をダラーッと地面に落とす方法。思わぬ方向に唾がゆれて自分の靴に落ちてしまうのが難点だが、これが意外と風の方向を読みやすいのには驚いた。
風の動きを見つけたら、一気にパラシュートを広げる。まだ風が弱いタイミングでは、フワッと膨らむだけ。まだまだ余裕のお遊びだ。感じをつかんできたタイミングで、ビューッと強い風が吹いてきた。今度はこの風をつかまえにかかる。
風を受けて大きく膨らんだパラシュートは、それをつかむ大人も子供も一気に引きずりはじめる。踵で踏ん張りながらも風邪の進行方向に引っ張られていく子供達は、必死の声量で叫び始めた。
「飛ばされるー!はせべ先生助けて〜」
「死ぬー!」
「キャー!」
子供達の顔からは一気に笑顔が消え、腰を落として必死に飛ばされないように踏ん張り始める。大人は子供達が飛ばされないようにより力一杯踏ん張る。その本気度が高い所作や表情に同調するかのように、子供達の顔も戦う顔に変わってきた。それを見ている順番待ちの子供達までもが手をギュッと握り、方をグイッと上げている。全身に思いっきり力が入っているようだ。
ほんの数十秒間の格闘のあと、風が少しずつ弱くなってきた。少しずつ膨らみを失っていくパラシュートを離した子供達の手はもう握力が残っていない状態で、初めての経験なのか数名の子供達は自分の手をグーパーさせながら不思議そうに見つめていた。
普段は見えなかったりその存在をあまり気にしない自然も、身体全体で感じることでその存在がくっきり見えてくる。そういった自然の存在を体感すると、きっと日常で見えてくるものも変わってくるはずだ。
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長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。
アウトドアイベントの企画・運営を手がける「Be-Nature School」スタッフ。人と自然をつなぐインタープリターとしても活躍中。
著作に『ネイチャーエデュケーション』1300円+税 みくに出版刊