日本で一番行くのが大変な秘湯!
みなさん、こんにちは。ソロ秘湯愛好家のゆみです。日本で一番遠い温泉は高天原温泉(富山県)! 日本で一番高所にある露天風呂は本沢温泉(長野県)! では、日本で一番行くのが大変なのは、どこでしょうか? はい、答えは間違いなくココ! 6月の白馬鑓温泉(長野県)でーす!
冬から梅雨明けは、到達困難に。それでも行きたい天空の露天風呂とは?
「白馬鑓温泉」とは、白馬連山標高2100mの山の上にある絶景の露天風呂のこと。山々を見下ろす壮大なロケーションから、別名「天空の露天風呂」とも言われる。でも、山小屋に泊まってゆっくり湯船に浸かりながら景色を堪能できる期間は7月~9月の2か月だけ。冬から梅雨明けにかけては、山小屋は解体され休業。その後、鑓温泉は深い雪の層に覆われ、足場の悪さから相当の雪山熟練者でないと立ち入ることはできない。その憧れの温泉に入るため、2019年6月(雪どけ時期)に温泉行を決行したのですが……。
猿倉登山口からスタート!
朝5時、猿倉登山口から、片道6時間の日帰り入浴のスタート(若干、無謀か)。
雪山装備も揃えたし、ベテランのガイドさんもいるし、準備よーし!!
水芭蕉のお花畑に心癒される小日向コル!
歩き始めて約2時間半。途中の平地「小日向コル」で迎えてくれたのは水芭蕉のお花畑!……わあ、きれいだなあ。ここまでは残雪もほとんどないし余裕、余裕♪ 頑張っていこー! しかし、余裕だったのは束の間、サンジロを過ぎると、つるつるで滑りそうな雪渓をひたすらトラバース。と、その時、突然けたたましい音が。
次々と襲いかかる、落石と氷の壁の恐怖!
(ゴロゴロゴロ……)
「うわっ、落石じゃん。ギャー!助けてー!!」。
「ふぅ~、死ぬかと思った。そうか、ここは以前本で見た『落石沢』っていう落石の多発の沢ね」。
次に待っていたのは、背丈の倍以上ある傾斜の激しい氷の壁。
「これ、登るの? こんな所で滑落してケガしたら、ヘリコプターに救助してもらって大騒ぎだよ。そんなのイヤ!まずは命を守んなきゃ!」。
今までの秘湯探訪の中で、これだけ命の危険を感じたことはあっただろうか……。カチカチの氷のモンスターにピッケルで足場を作りながら、恐る恐る登ってみる。氷のモンスターに挑むわたし。こんなに全身の筋肉を使うことは、今までも、これからもないだろうな……。
人間、命の危険に晒されると、撮影なんてしている余裕はない……。という訳で、どんな状態だったかはイラストでご想像ください。
最後の難関は、標高差200mの雪渓のぼり!
白いモンスターを越えたら最後の難関! 標高差200mの巨大な雪渓へ! この上に、あの露天風呂が待ってるはず!
「どんだけ登っても景色は同じ……ゴールが見えない。はぁはぁ……息が切れる」。
果てしなく続く雪渓を登り続けた末、ついに夢が叶う瞬間が!
「あぁ、憧れの、鑓温泉!到着~!!」。
とにかく眺望がヤバイよヤバイよ!…白馬鑓温泉!!
もうね、眺望がヤバイ! 山の稜線と雲の位置が低いんだもん。「天空の露天」とか「インフィニティ温泉」とか言われているお風呂が霞んで見えちゃうね。温泉というより、アニメに出てくる「ラピュタ城」を連想させる! 湯も豪快かけ流しで、新鮮そのもの!
「はぁ~、最高……ちょっとブヨが邪魔だけど……」。
それにしても、6月の白馬鑓温泉……命からがらの旅でした。この日の行程、歩き往復9時間、湯に浸かった時間20分(途中、雨で退散)。くれぐれも、憧れだけでは絶対に行ってはいけません。
~振り返って~
じつは、この白馬鑓温泉行きは「3度目の正直」でした。
初めて行こうとしたのが2014年9月。ところが、当日の朝、予約していた山小屋から突然電話があり「大雨で途中の橋が倒壊したので、小屋をキャンセルして欲しい」とお願いされ、やむなく中止。2回目は2019年5月で、この年は例年より雪解けが遅く、直近に行った人のWEBレポートで「落ちているはずの斜面の雪が残っており、雪崩の危険性大」と記載されていたので、出発予定日の3日前に中止を決意するしかなくて……。そんなこんなで、私にとって鑓温泉は、長年手が届きそうで届かない「もどかしい存在」だったんです。
そして、苦節5年、遂に2019年6月に到達したわけですが、今振り返っても、サバイバルな分、その景色と湯の新鮮さは圧巻! あの高所で毎分760リットルという大量の湯が湧いていて、それが湯船から滝のように溢れ出るほど豪快にかけ流されていることだけでも貴重で、マニアならずとも行く価値は十二分にあります!
それにしても、まさか、標高2100mの高所でブヨの大群に襲われるとは思いませんでした。写真撮影中、手足をいっぱい刺されましたし、入浴中でも肌の出ているところを根こそぎ狙いにきますからね、ヤツらは。なので、虫よけスプレーは必ず持っていってください。「春夏は虫がいるから野天風呂はちょっと…」なんて言っている、あなた! 野湯では、蚊の赤ちゃん(赤いミミズみたいなの)と混浴したり、ブヨや虻に襲われるのは日常茶飯事ですよ。虫に刺されようが、雨に打たれようが、この素晴らしい白馬鑓温泉を独り占めできたことに、わたし、大・大満足です!
さんざん煽っておいて何なのですが…最近、小屋の敷地の下に温泉が流れる空洞ができ、大規模な修復が必要とのことで、2021年度は白馬鑓温泉小屋の営業は行なわないそうです。(ショック!涙)。まぁ、小屋が営業されなくても、9月~10月なら残雪の心配も少ないし、紅葉も素晴らしいので、登山やキャンプからの日帰り入浴でチャレンジするのもアリかなと思います。
<コースタイム>
猿倉登山口(2時間23分)→小日向コル(2時間30分)→白馬鑓温泉(3時間5分)→小日向コル(1時間5分)→猿倉登山口
<持ち物いろいろ>
(服装)夏山登山の格好
(装備)アイゼン:モンベル Ltx-10、ピッケル:ペツル サミットエボ、ストック:モンベル アルパインポール、登山靴:モンベル アルパインクルーザー 2500、リュック:ノースフェイス テルス25 バックパック、レインウェア:ノースフェイス レインウェア レインテックス フライト、虫よけスプレー(この時期、虻とブヨが半端なく多いです。)、(食料)ドーナツ袋詰め、プリングルス1缶。おにぎり2コ、水2リットル(Platypus sot bottle)
『白馬鑓温泉』(はくばやりおんせん)
●泉質:含硫黄ーマグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉
●色・におい:透明・かすかな硫黄の香りと苦み
●入浴形態:混浴露天1 つ(営業期間中は女湯もできる)
●料金:500円
●アクセス:最寄りのJR大糸線白馬駅~猿倉登山口まではバスかレンタカーで行ける。毎年11月下旬から4月下旬まで猿倉登山口の手前から県道白馬岳線が通行止めになります、また自然災害による通行止め、施設の使用不可等、事前に情報は必ずチェックすべし!
※地域の新型コロナウイルス状況を必ずご確認のうえ、感染拡大防止を意識した行動を心がけてください。
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イラスト:藤本たみこ/温泉巡りに憧れるイラストレーター。東京都在住。少女漫画誌でデビュー後、漫画作画・イラスト・web素材製作などの仕事を幅広く手がける。