旅人店主のウイスキー徒然日記 vol.1ウイスキーの始祖と焚き火
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    2021.05.03

    旅人店主のウイスキー徒然日記 vol.1ウイスキーの始祖と焚き火

    新宿歌舞伎町にあるoutdoorsman bar ROVERSのカウンター。夜な夜なアウトドア好き酒好きが集う。

    ウイスキーは旅である。旅先で思いがけない一杯と出合うことがある。また、それとは対照的に、グラスのひと雫から旅を感じることがある。この旅、これがいい。これまでに経験した旅をトレースするだけではなく、あらゆる土地のあらゆる時代へと誘ってくれるのだ。

    「さて、次は何処の土地へ、はたまたどの時代へ旅をするか……」バックバーの3列目あたりへ眼をやり、そぉっと次に飲むボトルを眉間でまさぐる。そしてまた一杯。グラスの中で揺れる茶褐色の液体が、世界中の土地、あらゆる時代へと思考を運んでくれる。まさに旅である。土地の風に吹かれるように、文学を読み解くように、またグラスを傾ける。これだからウイスキーはやめられない。

    コロナ禍にあるこの時期、都心のBARは早くに灯を消さねばならなかったり、ゆったりと落ち着いて飲めないことが多い。そんなときは酒瓶を手に外へ出る。誰もいない森へ、草原へ、いやキャンプ場でも良い。テントを張り、焚き火で一杯なんていうのはなかなか良い。そうしよう。今夜は、この時季の焚き火に合うバーボンに決めた。

    「EvanWilliams aged 12 years(エヴァンウィリアムス12年)」

    無骨な四角いボトルに、霞んだ赤いラベル。丸太に置いたボトルに映り込む焚き火。この佇まいだけですでに酔える。バーボンの始祖と呼ばれるエヴァン・ウィリアムス氏の名をつけたこのバーボン。

    バーボンの誕生については諸説あるが、一般的には1789年6月14日に、エライジャ・クレイグ牧師が蒸留したものが世界で初めてのバーボンとされている。だが、それより6年も前。1783年にエヴァン・ウィリアムス氏がすでにウイスキーを完成させたという記録が残っている。

    今ではエライジャ・クレイグ氏を「バーボンの父」、エヴァン・ウィリアムス氏を「バーボンの始祖」と呼ぶようになった。実にアメリカ合衆国建国(1776年)からわずか数年後の出来事だ。まさにアメリカ合衆国の歴史とともに歩んだウイスキーといっても過言ではない。

    白樺の皮に火を付け、薪をくべる。最初はストレート(1)でいきたい。ボトルの蓋を開けると、その外見からは想像がつかない程にエステリー(2)。柑橘とバニラが重なった甘く強い香り。アルコールは50度と強めだがキック(3)は柔らかい。口にすると濃い目のカスタード、洋ナシ、ハチミツ、が舌に纏わり付く。

    この特有の甘みは、「エヴァンウィリアムス」の特徴とも言えるチャコールフィルタード(砂糖カエデの木炭でろ過する特殊な製法)が為せる技だ。ゆったりと口中に広がり、もったりと喉を滑り流れる。ノージング(4)で強く感じたバニラが、余韻の中には微塵も感じない。上等なプレミアムウイスキーは勿論美味いのだが、焚き火の側にはやはりこの赤いラベルがしっくりとくる。

    緑が日増しに濃くなってきたが、まだ夜が深まると肌寒く感じる。焚き火にあたりながらも、グラス3杯目が空くころには、やはり温かいものも飲みたくなってくるのだ。そこで登場するのがミルク。

    焚き火にのせたホーローのポットにミルクを入れて温め、そのホットミルクをカップの中でエヴァンウィリアムス12年と合わせる。好みで砂糖を加えても良い。だが、すぐに飲んではいけない。小枝でゆっくりと3周かき回し、30秒ほど焚き火を眺めながら待つのだ。そのひと手間で味が馴染んで香りが立つ。さらに待つことで、アルコールを含んだ蒸気によるむせ返りを防ぐ。

    ウイスキーカクテル「ホットカウボーイ焚き火バージョン」の出来上がりだ。10代の頃より30年以上にわたって焚火を嗜んでいる私は、様々なバーボンをミルクで割ってきたが、ホットミルクとの相性が一番良いのは、やはりこの「エヴァンウィリアムス12年」である。

    もうすでに熾火となった焚き火の前で、温かいカップをそっと口に運ぶ。ひと口、もうひと口。一気に体が芯まで温まる。さぁ、熾火も弱くなり、暗闇に星が広がり始めた。240年前のアメリカと繋がれた夜もお開きにしようか。そろそろテントに潜ってひと眠り。

     

    今すぐ使える!お酒ワード

    (1)ストレート … グラスに注いでそのまま飲む事。香りを開かせたりアルコール刺激を減らすために、数滴加水して飲んだりもする。氷を入れるとロック。ウイスキーと同量の水を加えたものはトゥワイスアップと呼ぶ。

    (2)エステリー … ウイスキーを楽しむ上で、欠かせないのが香り。その表現の一つで、甘美で華やかなものを指す。その発展的な表現として、フラングラントやフルーティーなどの表現もある。

    (3)キック … アルコールの刺激。カクテルなどではアルコール度数の強さや、アルコール自体を意味する場合がある。

    (4)ノージング … グラスの中に鼻を近づけて、ウイスキーの香りの奥行きや広がりなどを数回に分けて確認する行為。

    私が書きました!
    大木ハカセ
    旅を活動の中心に置くアウトドアズマン。この数年は馬に跨り、遊牧民を訪ね、ともに生活する旅を継続中。毎年夏には全国の中学生たちと共にリヤカーを引きながら東海道五十三次(500km)を行く野宿旅「リヤカー東海道五十三次」や、小学生たちと共に島旅など、次世代との遠征にも力を注いでいる。無類のウイスキー愛好者であり、新宿歌舞伎町で「outdoorsman bar ROVERS(ローバーズ)」を運営。遠征中には数か月にわたり店を閉めてしまうという名物店主

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