登山における「三種の神器」のひとつと呼ばれるレインウェア(雨ガッパ)。雨に濡れる事による体の冷えを防ぎ、低体温症の危険から登山者を守ってくれる「お守り」のような存在です。
登山ガイドである筆者が、気がつけば3代に渡って使い続けるお気に入りのレインウェアが「レインダンサー」。モンベルの中ではスタンダードモデルに位置づけられている製品ですが、初心者だけでなく、私たちヘビーユーザーからも長年支持を集める逸品です。
はじめてのレインウェアはどう選べば良いのか
レインダンサーの良さを語る前に、まずは雨ガッパの選び方の基本をご紹介します。例えば筆者がガイドとして低山を案内する場合、最低限、お客様に用意してもらいたいレインウェアの条件は以下の2つです。
1.セパレートタイプである事
ジャケットとパンツが上下別々になっているセパレートタイプ。頭からすっぽりかぶるポンチョや、羽織るだけのコートタイプの場合、下半身を雨濡れからカバーできませんし、風にあおられて飛ばされる事も考えられます。
2.防水透湿性素材を使っている事
「防水性」という観点からはビニールやゴムのカッパでも充分ですが、登山など活発な運動を伴う着用シーンで重要なのが「透湿性」。簡単に言えば、ウェア内部の蒸気を外に放出してくれる機能です。雨を防げても自分の汗でビショビショになっては元も子もありません。
その他、フードが視界を妨げないか、ポケットがザックのハーネスと干渉しないか、パンツは登山靴を履いたまま脱ぎ着できるか、など、細かいこだわりを挙げればキリがないですが、はじめてレインウェアを買う方は、とりあえず上記2つに当てはまる製品を選べば間違いありません。
レインダンサーの防水透湿性素材とは
こうしたレインウェアは、いまやホームセンターや作業着の量販店などでも入手できます。しかし、具体的にどの製品が良いかと聞かれたら、たとえ初心者の方であってもモンベルのレインダンサーをお勧めしています。実際、量販店の格安レインウェアとは、使えば誰でも違いがわかるレベルです。
その大きな理由は、使用している防水透湿性素材がゴアテックス(GORE-TEX)だという点です。素材そのものの防水・透湿性能が優れているのはもちろん、ゴアテックスを使用したレインウェアの完成品は、メーカーだけでなくゴアテックス側でもテストを行ない、縫製部分やシームテープ(防水テープ)からも浸水がないか厳密にチェックされます。そのため、ノウハウを持たないメーカーはゴアテックスの製品を作る事すらできません。
以前、筆者も「なんとかテックス」のようなオリジナル素材の雨具を試した事がありますが、着用時のムレ感が強く、また、すぐにウェア内部の生地が剥離して使用不可能になってしまいました。多種多様な防水透湿性素材がしのぎを削る現在でも、やはりゴアテックスへの信頼感はダントツです。
レインダンサーは丈夫で長く使える
モンベルのラインアップ中、ゴアテックスを使用した雨具はレインダンサーだけではありません。では、なぜ筆者が“レインダンサー推し”なのか。それは「デニール数」に秘密があります。
デニールと聞いて「ピン!」と来るのは女性の方が多いでしょうか。デニール数とは、使われている糸そのものの太さを表す数値であり、ストッキングやタイツのパッケージに温かさの目安として表記される事が多いようです。
レインウェアにおいては、表面の生地に使用されている糸のデニール数に注目しましょう。「レインダンサー(¥18,480)」以外にモンベルを代表する雨具として、最新技術を惜しげもなく投入したフラッグシップモデル「ストームクルーザー(¥22,880)」、軽さにスペックを振った「トレントフライヤー(¥25,080)」と比較してみます。
- レインダンサー:50デニール
- ストームクルーザー:20デニール
- トレントフライヤー:12デニール
※値段はいずれもジャケットのみ
このように、モンベルの一般的な登山用レインウェア(ゴアテックス製)の中で、最もデニール数の高い製品がレインダンサーです。ゴアテックスのメンブレン(水蒸気を通す微細な穴が空いたフィルム状の膜)を挟む生地の種類や枚数に差異こそあれど、基本的にデニール数が高ければ高いほど単純に強度が出ると考えてOKです。
レインダンサーは、利用シーンがハードな方はもちろん、ひとつのレインウェアをなるべく長く着たい方にも適していると言えるでしょう。
レインダンサーは耐風性にも優れる
レインダンサーの隠れた魅力、それは耐風性能に優れるという点です。
表面にデニール数が低い“しなやかな”生地を使用している場合、強風に吹かれるとレインウェアと中間着、アンダーウェアとの間で形成されていた空気層が潰れて肌に密着し、そこから体温が奪われてしまう事が考えられます。
モンベルの代表的な雪山用ジャケット「ストリームパーカ」が70デニールの生地を使用している事から分かるように、デニール数からは強風下での保温力の目安を読み取る事もできるのです。
一方、気になるレインダンサーとストームクルーザーとの重量差は81g(いずれもメンズのジャケット)と、だいたいLLサイズの卵1個分くらいの違いでした。軽量化のために歯ブラシの柄を半分に切る人もいるような山業界。卵1個分を軽いと思うか重いと思うかはアナタ次第……でしょうか。
レインダンサーは誰にでもお勧めできる名品
筆者が着用しているオレンジのレインダンサーは、使用開始からおよそ10年。さすがにオイルコンタミ(皮脂などで生地が詰まり透湿性が落ちる事)が発生し登山用としては一線を退いていますが、そうそう破けない50デニールの表面生地のおかげで、今でもキャンプや釣り、旅行などで活躍してくれています。
決して「良いレインウェアは一生モノ」とは言いません。さすがのゴアテックスも、いずれはメンブレンの経年劣化による剥離が発生します。筆者もそろそろ新しいカッパの購入を検討しているのですが、性能と価格のバランスを考えると、やはり次もレインダンサーを“リピ買い”しようかなぁと思います。
レインダンサーはモンベルのゴアテックス製レインウェアの中でスタンダードモデルとされていますが、「他より割安=機能が劣る」という認識は当てはまりません。雨具に必要とされるスペックには一切妥協なく設計された、バランスが良い充実の定番モデルなのです。
はじめてレインウェアを探している方からプロユーザーまで、どうぞ一度袖を通してみてください。きっと、そのコスパに驚く事でしょう。
コロナ禍において山のライター、シラス漁師、鮮魚店の売り子、ポニーのお世話などの副業を始め、あらためて自分の好きな事を仕事にする喜びを感じている。1985年生まれの子育て世代。ペットは深海生物のオオグソクムシ 。