最近よく聞くようになったSDGsという言葉。企業活動の新ルールと受け止めている人もいるかもしれないが、正しくは世界中の人々が目指すべき幸福のための努力目標。その考え方のベースには、ぼくらが愛する自然があった!
誰もが地球で
幸せに暮らし続けるための
コミュニケーションツール、
それがSDGsです
教えてくれた人
川廷昌弘さん
1963年兵庫県芦屋市生まれ。博報堂DYホールディングスグループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長としてSDGsを推進。神奈川県非常勤顧問、茅ヶ崎市、鎌倉市、小田原市のSDGs推進アドバイザーなどを務める。著書に『未来をつくる道具 わたしたちのSDGs』(ナツメ社)。写真家としての作品集に『松韻を聴く』など。
Q エコとSDGsはどう違うの?
A
たとえば地球温暖化の原因であるCO2の増加は、化石資源の大量消費だけでなく森林開発とも関係があります。これらの開発行為は生物多様性を脅かすなどさまざまな連環性を持っていますが、自然対人間という構図だけでなく、人間対人間、つまり貧困や飢餓、健康と福祉、不平等、教育の質などとも地下茎のようにつながっていることを忘れてはなりません。SDGsには、エコの視点だけでは解決の難しかった負の問題を同時に正せる可能性があります。
Q SDGsってなんの略?
A
Sustainable Development Goalsの略で「持続可能な開発目標」と訳されています。私たち人類には共通する深刻な課題が3つあります。「平和」「人権」、そして「環境問題」です。これらは経済と密接に関係しており、国や民族、思想信条を超えて向き合わなければならないものですが、国や行政、企業の力だけで解決できるものでないことは明らかです。個人ひとりひとりの意識改革と具体的なアクションにかかっています。それらの課題を17の達成目標と169の具体的目標に整理した、思考と行動のためのツールが『SDGs』です。ゴール期限は2030年に設定されています。
Q 「開発」とは自然破壊のことでは?
A
Developmentは日本語では開発と訳されますが、自然を改変する工事や、そうした手法による経済活動のことではありません。本来は「封を開く」といった探究的な意味で使われ、能力、センス、可能性などのニュアンスを含んでいます。誰もが自分の持つ可能性を発揮できる、そういう社会を目指すことを開発という言葉で示しています。より具体的な言葉としてサステナブル・デベロップメント、あるいはヒューマン・デベロップメントという表現もあります。
2100年未来の天気予報
環境省が地球温暖化に対する危機意識を喚起するために作った未来の天気予報(動画)。CO₂排出の抑制目標を達成できないと、2100年の夏は日本中が40度C超えの"激暑"に。考えただけでも恐ろしい。
Q いつぐらいに生まれた考えなの?
A
人類の生産活動が地球に与えるダメージがはっきりしだしたのは産業革命以降です。第二次世界大戦が終わり世界中で高度経済成長が始まると、より多くの歪みが見え始めました。’72 年、国連の諮問機関であるローマクラブが、このまま人口増加と環境汚染、資源の浪費が続けば、人類の活動は100年以内に破綻するという衝撃的なレポートを発表しました(『成長の限界』)。以後、国連では持続可能な社会のための議論が重ねられてきました。その集大成として’15年に採択された文書に書かれたのがSDGs。全世界の人類が一致団結して地球の未来に向きあうことを約束した画期的な合意書です。法的な拘束力はありませんが、国連加盟国は履行の義務を負います。
Q 「しょせんきれいごとさ」とかいう人もいない?
A
いると思います。でももう一度思い出してください。SDGsに掲げられた17の課題は全人類に共通するということを。つまり誰もが当事者なのです。ということは、他人ごとではなく自分ごと。「きれいごと」というのは、日本では冷笑主義の代名詞、やらないための言い訳になってしまっています。清く正しく美しいことは理想だけれど、実行はなかなか難しい。その諦めがきれいごとという否定的な言葉になってしまっているのかもしれません。しかし、SDGsがいっていることは「行動なくして変容なし」。私は、きれいごとという言葉の使われ方自体をポジティブにひっくり返したいと思っています。
気候変動に具体的な対策を
エネルギーをみんなに
そしてクリーンに
SDGsの17の目標と主要なターゲットを楽しいイラストで紹介する『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』(本田 亮著・小学館刊)が発売中!
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/川廷昌弘
(BE-PAL 2021年6月号より)