鹿児島最高峰「宮之浦岳」に、太平洋から走って登る!
鹿児島県最高峰は、屋久島の宮之浦岳(1936m)。九州の最高峰でもある。その頂に落ちる雨粒は、東側は安房川(あんぼうがわ)、西側なら栗生川(くりおがわ)、真北の一部はかろうじて宮之浦川となり、太平洋にそそがれる。
どの川をたどれば、ぼくはこの島と山のことがわかるのだろう。どうせなら屋久島を堪能したい。コロナ禍になる前の2019年5月、栗生港から花山歩道を登り、周回してから永田歩道を下ってみることにした。あとは現地でのフィーリング次第だ。
雨の屋久島に到着!
鹿児島空港まで飛び、翌朝フェリーで屋久島へ。天気予報では5日間の滞在期間中、すべてドシャ降りの雨。もう開き直るしかない。
昼すぎに安房の民宿「もりちゃんハウス」につき、温泉、そして酒になだれ込む。雨が止む気配はない。もうなるようになれ、だ。
0日目(偵察)
ドシャ降りの中、丸一日をかけてコースを偵察する。
大きな成果を得た。計画変更、やっぱり大本命だった安房川を辿ることにしよう。リスクはあるが、チャレンジする価値はある。
1日目(安房港から縄文杉、新高塚小屋まで)
いよいよ本番。夜明けの安房港をスタート。雨が降りやむ気配はない。
昨日ほどの雨の勢いはなく、恐ろしく吠えまくっていた激流も、だいぶおとなしくなっている。
楠川別れで白谷雲水峡方面からの登山者たちが合流し、一気に混雑する。有名な屋久杉の前では撮影待ちの列までできていて、たまらずその脇を走り抜ける。
団体の列を追い越し続けているうちに、補給を怠っていたようだ。高塚小屋をすぎると、脚が動かなくなった。
急速に走意が失せていく。あわよくばワンデイでと思っていたが、早々に新高塚小屋に逃げ込む。寒気が止まらない。続々と入ってくる登山者たち。誰もがこのひどい雨にウンザリしている。
電波の届かないスマホほど役にも立たないものはない。やることがないので、焼酎を飲み、衣類を乾かしながら、誰かが鳴らすラジオをぼんやり聴く。静かに夜は更けていった。
2日目(新高塚小屋から宮之浦岳、ヤクスギランド、安房港まで)
夜が明け、小屋を出る。雨中アタック開始だ。
単独者を抜き、つづいて2人組パーティーを追い抜く瞬間、彼らの顔色がさっと変わる。ぼくは瞬時に事情を飲み込んだ。この日はちょうど元号が令和になった日だった。彼らは令和初の宮之浦岳登頂を狙っていたのだ。
標高1670mで森林限界を抜ける
6:46 宮之浦岳登頂。展望はまったく無く、長居は無用。下山開始後、ずいぶん経ってからやっと登山者とすれ違う。令和初の宮之浦岳登頂者であったことは、間違いないだろう。
深い深い森の中のランニング。人間どころか、昨日はあれだけみてきた鹿や猿もまったくいない。聴こえてくるのは雨粒がしたたる音、川のせせらぎ、鳥のさえずりだけ。
やっと気づいた。屋久島の真価は、この森の深さ。その森の中に、溶けていきたい。
ヤクスギランドで、森の静寂さは消えた。ここはもう下界、あとは海をめざして走るだけ。
安房港の海にタッチし、鹿児島編完成。
そして、ああ、なんということだろう。毎回GPS腕時計でログを記録しているが、今回の貴重なデータに限ってなぜか消えていた。地図は下山途中に崖下に落としてしまったし、なんともついていない。令和初の宮之浦岳登頂は、ぼくの記憶と数枚の写真だけに儚く残ることになった。
(掲載内容はすべて2019年時点の情報になります)