外国人初の杜氏 フィリップ・ハーパーが語る “世界が恋する日本酒”
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    2016.07.08

    外国人初の杜氏 フィリップ・ハーパーが語る “世界が恋する日本酒”

    「南部美人」五代目蔵元の久慈浩介、外国人初の杜氏フィリップ・ハーパー、日本酒ジャーナリストのジョン・ゴントナー――日本酒の世界で新たな挑戦を続ける3人を追うドキュメンタリー映画『カンパイ! 世界が恋する日本酒』。フィリップ・ハーパーに聞いた。

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    ――88年に英語教師派遣のJETプログラムで来日し、同僚の影響で日本酒好きになったそうですが、オックスフォード大学で文学専攻していた方が日本酒の蔵人になるって大変な振り幅ですよね。もともと例えば農業のように、体を動かしてなにかをつくるのがお好きだったのですか?

    「花を植えたり牛や豚の世話をしたりジャガイモの収穫をしたり、田舎育ちだったので十代からバイトで農業をしてはいましたが”体を動かしてモノをつくりたかった”というわけでもないんです。簡単にいえば、酒呑みがちょっと行き過ぎただけのことで()。日本酒のおいしさを教えてくれた友達はいま、僕を含む3人がそのときの仕事を辞めて蔵に入っていますが、その影響は大きいですね」

    ――当時の杜氏は数人の蔵人を抱えてチームを組み、蔵元からその年の酒造りを請け負って住み込みで働くスタイルだったわけですよね?

    「仕事に対する信念や超人的としか言いようのない労働量を当たり前のようにこなす杜氏たちの生き方はとても格好よかったです。けれど僕が蔵人になった平成の初めごろは後継者不足でした。当時の蔵人は基本的に同じ地域のメンバーで構成されていましたから、人手が足りないからとよそ者が入ってもなかなか続かなかったようです。まして外国人なんて、いらない! と言われても当然で。でも蔵人の仕事は秋から春まで一日の休みもないきつい仕事ですから、それなりに働いてくれるならイギリス人でもなんでも! という感じだったのかもしれません()

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    ――職場の上限関係の厳しさも、すぐに順応出来たのですか?

    「違和感はなかったです。確かに朝新聞を読むのもお風呂に入るのも、杜氏であるおやっさんからと決まっているのですが、システムとして上手く機能していましたから。まあそんなもんかなと思ってました」

    ――京都の「木下酒造」で杜氏となり、新しい商品をどんどん開発されましたよね。古いしきたりを大切にする社会で、新しいことをやるのは大変だったのでは?

    「僕が入る前、蔵元は会社をたたむことを考えていたくらいで、継続するからにはなにか新しいことを、というのが蔵元の希望だったんです。それに日本酒って皆さんが思う以上に幅が広く、色々なタイプのお酒がある。新しい商品をつくるのはいたって簡単です。例えばうちの商品で”Time Machine”というシリーズはふつうの甘口とは次元が違います。日本酒の甘口・辛口などの味わいを数値化した”日本酒度”でいうと、現代の日本酒の場合はマイナス2~3だと甘口の部類ですが、”Time Machine”はマイナス60。ビックリするような甘さです。つくり方から他とは全然違うので、そこから研究しました」

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    ――そうした研究の過程が面白いのですか?

    「会社に必要な商品を提案しているつもりです、物好きという言われ方をする事もありますが(笑)。うちでは日本酒味のソフトアイスを販売していて、夏場は飛ぶように売れるのに肝心のお酒は売れない。そこでアイスクリームに合う日本酒を、と考えたのが”Time Machine”をつくるきっかけでした。製造はかなり大変で、いちどつくったら5年くらいは在庫がもつかと思っていましたが、最初からコンスタントに売れています」

    ――酒造りは1年の200日あまりを休みなく働き、大変な重労働とか。そうした日々のなかでどんな楽しさがあるのでしょう?

    「悩んでばかりですがやりがいがあり、それを含めて”楽しい”のかなと。酒造りにはさまざまな工程があってそれを組み合わせて進めるので、いちど全体のバランスが崩れると大変なことになります。皿回しを200日し続けるようなものだと考えていただければイメージしやすいかもしれません。”お皿”を落としたことはありませんが、揺れることはちょいちょい(笑)。たとえば辛口のつもりが甘口になったら問題ですが、よく料理人が言うように、失敗がつぎの酒造りのヒントになることもあるのです」

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    ――すると同じ商品でも年によって味が変わるのでしょうか?

    「工業製品ではないので、厳密に言うと毎年違います。農家さんが同じ田んぼで同じお米をつくってもその年によって出来が違いますし、われわれの仕事はそこからのスタートですから。ワインだとブドウの収穫が終わらないうちに”今年は当たり年”などという情報が出ますが、日本酒の場合は違います。同じお米を材料にしてお酒をつくっても、蔵Aは当たり年で蔵Bは外れということがありうる。つくり手のテクニックにより比重が置かれます。”和良醸酒”といって、職人が仲良くやっている蔵はいい酒が出ると言われるんです」

    ――酒づくりにおいて、今後やってみたいことはありますか?

    「いま”熟成酒”に取り組んでいます。3年間熟成させてから出荷するのですが、より味わい深くなり、旨味が増します。日本酒のポイントはやはり旨味。おいしい日本酒は、濃厚であってもしつこくない。それは上品なダシのおいしさにかなり近い感覚という気がするんですよね」

     

    フィリップ・ハーパー
    木下酒造・杜氏。1966年イギリス、コーンウォール生まれ。オックスフォード大学卒業後、1988年日本の英語教師派遣のJETプログラム出来日。2年の任期を経て奈良県の酒造メーカー、梅乃宿酒造で蔵人として10年働き、2001年南部杜氏資格選考試験に合格。大阪、大門酒造を経て、木下酒造へ。初年度に全国新酒鑑評会で金賞を受賞した。現在、翻訳を手掛けた「灘の酒用語集」(http://www.nada-ken.com)が公開されている。

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    『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(配給/シンカ)
    監督/小西未来 出演/フィリップ・ハーパー ジョン・ゴントナー 久慈浩介 
    ●7/9~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
     
    公式HP:http://kampaimovie.com/
    ©2015 WAGAMAMA MEDIA LLC.

     

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