中国の内モンゴル自治区北部に広がる、フルンボイル(呼倫貝爾)草原。モンゴル系の遊牧民たちが自由に暮らしていたこの美しい大草原を舞台にした映画『大地と白い雲』が、2021年8月21(土)から、岩波ホールなど全国各地の劇場で順次公開されます。
中国の北京電影学院の教授でもあるワン・ルイ(王瑞)監督は、内モンゴル出身の俳優ジリムトゥとタナを主演に抜擢し、ほぼ全編をモンゴル語の台詞で構成して、この作品の制作に挑みました。2019年の東京国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞し、中国で最大の映画祭である金鶏奨では2020年の最優秀監督賞に選ばれています。
瑞々しい草の生い茂る夏と、凍てつく雪に覆われる冬が交互に訪れる、広大なフルンボイル草原。その只中で、家畜たちとともにつましく暮らしていた、ひと組の夫婦がいました。夫のチョクトは、己の手足のように馬を乗りこなす技をはじめ、遊牧民の祖先から受け継いできた伝統と誇りを、胸に抱いて生きてきました。妻のサロールは、そんな遊牧民の男らしさを備えたチョクトを愛し、大草原での彼との平穏な生活が、ずっと続くことを望んでいました。
しかし、かつて彼らの祖先の遊牧民たちがしていたような、季節に応じて気ままに草原を移動しながら生きる自由な暮らしを続けることは、時代の移り変わりに伴い、次第に難しくなっていました。針金のフェンスで囲い込まれた草原の中で、変化のない定住の日々を過ごすことを余儀なくされているチョクトたち。周囲の知り合いたちは、一人また一人と土地や家畜を売り払って、草原での生活に見切りをつけていきます。チョクトもまた、今とは違う自由な生き方への憧れを抑え切れず、たびたび家を留守にしたり、草原を離れて都会で暮らそう、と何度となくサロールに持ちかけたりします。
大自然の中での穏やかな暮らしを愛し、変化を嫌うサロールは、チョクトと家畜たちとの草原での生活を続けることに、頑なにこだわり続けます。二人の思いは、平行線を辿るうちに次第にすれ違いはじめ、やがて、ある吹雪の夜に起きた出来事によって、二人は大きな存在を喪うことになります。
現代社会の変化の波によって急激に失われつつある、大自然の中での遊牧民たちの自由な生き方。伝統と変化の狭間で揺れ動くチョクトとサロールが選ぶそれぞれの道は、観客の私たちにも、今一度考えるべき何かを指し示してくれているのかもしれません。
『大地と白い雲』
監督:ワン・ルイ(王瑞)
脚本:チェン・ピン(陈枰)
原作:『羊飼いの女』漠月
編集:ジョウ・シンシャ
音楽:ジン・シャン
出演:ジリムトゥ、タナ、ゲリルナスン、イリチ、チナリトゥ、ハスチチゲ
2019年/中国映画/中国語・モンゴル語/111分/原題:白云之下
字幕:樋口裕子/字幕監修:山越康裕
配給:ハーク
公式サイト:http://hark3.com/daichi/
2021年8月21日(土)、岩波ホール他全国順次公開!