「魚は食べたいけど、肉より高いんだよね」という声をよく耳にします。たしかにスーパーで売っているマグロの刺身などは、グラム単価で言えばちょっとした和牛と変わらないくらいの値段です。
しかし、海に囲まれた国に住んでいる我々が魚を食べないのはもったいない話。コロナ禍の1シーズン、相模湾のシラス漁船に乗っていた筆者が、「安くて旨い」マイナー魚のレシピをご紹介します。
カタクチイワシ ~足の早さも味わいも一級品~
相模湾ではシコイワシと呼ばれるこの魚。実は販売されているほとんどのシラスの親がカタクチイワシだということをご存知ない方もいるのではないでしょうか。
当然、シラス漁の最中にしばしば混獲される訳なのですが、剥がれやすいウロコがシラスに混じってしまうと商品価値が下がるため、漁師からはあまり歓迎されないゲストと言えるかもしれません。
一方、その味は繊細かつ旨みたっぷり。獲れたてのものは刺身や“なめろう”など生で食べると格別であり、生シラスと共にご飯に乗せた「親子丼」をかっこむときの幸福感と言ったら、もう……。
もちろん、煮ても焼いてもマイワシに負けない風味を楽しめるカタクチイワシですが、子供ウケが良く我が家の定番となったレシピがこちらです。
カタクチイワシの唐揚げ
【材料】
カタクチイワシ 適量
塩・胡椒 適量
片栗粉 適量
サラダ油 適量
【作り方】
1. イワシの頭と内蔵、中骨を取り、両面に塩を振って数分置く。
2. キッチンペーパーなどで表面に滲んだ水分と臭みを拭きとる。
3. 片栗粉をはたき、中温の油の中へ投入。数分でキツネ色に揚がったら完成。
4. お好みでお酢やケチャップ、レモンなどを絞ってどうぞ。
このメニューに関しては、熱々のところを手づかみでパクっといくのがお作法。軽やかな衣の中から溢れ出る、青魚特有のサラサラとした脂がたまりません。これは冷たいビールをプシュっといくしかないでしょう!
マイワシと比べても更に骨が柔らかいカタクチイワシは、それこそ頭や内蔵、中骨を取らずにそのまま揚げても美味しくいただけます。
しかし、漢字で魚へんに弱い(鰯)と書くことから分かるように、イワシは大変身が柔らかい魚です。捌くのには包丁すら必要としませんので、口当たりが気になる方や小さなお子様がいる家庭は、「手開き」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
カタクチイワシは特に足が早い(=鮮度落ちが早い)のが特徴です。購入する際は、お腹が破けたり目の回りが赤くなっていないものを選ぶと良いでしょう。
コノシロ ~大きくなるほど安くなる悲しみの魚~
コノシロは馴染みのない名前かもしれませんが、「コハダ」と聞いたらいかがでしょうか。コハダはコノシロの幼魚を指す言葉であり、江戸前寿司の一品目として供されることが多いニシン科の魚です。
寿司ネタとしてのコハダは、サイズが小さければ小さいほど高級とされるため、悲しいかな、大きく育ったコノシロは一匹100円くらいから投げ売りされることも多いようです。
漢字では魚へんに冬(鮗)と書きますが、相模湾では通年網にかかるため、しばしば我が家の食卓にも並んでいました。
ただし、ニシンの仲間は小骨が多く、単純に刺身や塩焼きにすると少々食べ辛いのが難点。高温でカリッと揚げたり、圧力鍋にかけたりと様々な調理法を試しましたが、ダントツで美味しかったのがこのメニューです。
コノシロの押し寿司
【材料】
コノシロ 適量
塩 適量
砂糖 適量
お酢 適量
昆布 適量
大葉 適量
ガリ(新生姜) 適量
【作り方】
1. 三枚におろしたコノシロの身に塩を多めに振って1時間ほど置く。
2. 水を加え半々くらいに薄めたお酢で塩を洗い流す。
3. お酢と塩、砂糖、昆布を入れたタッパーにコノシロを並べる。
4. 冷蔵庫で半日以上寝かせる。
5. 四角い容器(筆者は牛乳パックなどを使用)に酢飯を詰める。
6. 酢飯の上に大葉とガリ、コノシロを並べ、上からギュウギュウと押す。
7. 容器から取り出し、好きなサイズに切ってどうぞ。
やはりコノシロは酢締めにするのが定石。漬けて半日も経つと見事に小骨は消えてなくなり、魚本来の味わいを思う存分堪能できました。
幼魚であるコハダに比べ身が厚いため、そのもっちりとした食感がより際立ちます。酢飯や大葉、ガリと共に口に入れても、魚が自分の存在をしっかり主張してくるのです。これは……旨い!
三枚おろしにする必要があるとは言え、ズバッと一太刀で身と中骨とをわける「大名おろし」で構いません。刺身とは違い皮を引く手間もありませんので、初心者でも失敗する可能性は低いでしょう。
簡単レシピの割になんとなく手が込んでいるように見えるため、おもてなし料理としても重宝するはずです。
ちなみにコノシロとは子の代、つまり「子どもの身代わり」といった意味だそうです。新生児の健康を祈願して魚を地中に埋めたことが由来のひとつとされているそうですが、武士は「この城」と読み換えられるコノシロを食すことは避けたという話も伝わっています。
いずれにせよ、多種多様な伝承が残っているほど、コノシロは古くから日本人と縁が深い魚なのです。
高価なマグロより「安くて旨い」マイナー魚を選ぼう!
カタクチイワシやコノシロは食卓において決してメジャーな魚種ではありませんが、各地で一年を通して安定して漁獲されています。
沢山獲れた魚は、大量にさばくため売価を抑えるのが商売の道理。ましてや足の早いカタクチイワシや、大きく育って寿司屋さんから見向きもされないコノシロなどは、特にオトクな魚だと言えるでしょう。
消費者からすれば、「安くて旨い」に越したことはありません。おおよそ味の想像がつく高価なマグロを求めるよりも、安価なマイナー魚を調理する方が、知的好奇心も刺激されるのではないでしょうか。日本の文化たる深淵な魚食の世界を、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと思います。
なお、「レシピの材料がぜんぶ“適量”じゃん!」というツッコミは甘んじてお受けしますが、海を泳いでいた魚たちは規格品ではありません。レシピに「コノシロ○○g」などと書いても、実用上はほぼ無意味でしょう。
同じ味は二度と作り出せないのが漁師のレシピ。天然物の魚と同じく、一期一会の巡り会いをお楽しみいただければ幸いです。
コロナ禍において山のライター、シラス漁師、鮮魚店の売り子、ポニーのお世話などの副業を始め、あらためて自分の好きなことを仕事にする喜びを感じている。1985年生まれの子育て世代。ペットは深海生物のオオグソクムシ 。