現代人には実体験が必要だ
BE-PAL創刊とともに日本にアウトドア文化がやってきて早40年。日本のアウトドアシーンを索引してきたキーパーソンへのインタビューリレー第4弾は、創刊前夜からBE-PALと併走してきた環境漫画家の本田亮さんです。編集長・沢木も知らない昔話をしてくださいました。一部をご紹介します!
本田さんとBE-PALは、創刊前から関わりがあると聞いています。その出会いは、どういうものだったのでしょうか。
「BE-PALが創刊された40年前、僕は広告代理店でCMプランナーをしていました。そしてあるとき、僕がアウトドア好きだと知った宣伝部の人が『BE-PALという雑誌が創刊されるから、 広告を担当してみないか』と声をかけてくれたんです。いちばん最初に僕が出した案は、親子が湖でカヌーの練習をするというものでした。エスキモーロール、ひっくり返って復元する技です。 ところがそのプランを創刊編集長に提案したら『本田くん、BE-PALはそういう雑誌ではないよ。対象とする読者は自分の家のベランダでテントを張ったり、そこから星を見たりする人なんだ。カヌーなんて、今後も一切取り上げないからね』といわれてしまった。
しかしそのとき、ロケハン隊はすでに アメリカに到着していた。慌てて電話をすると『ちょうどひっくり返るのにいい湖を見つけたところです』なんていうから『その案そのものがひっくり返ったぞ』と答えました(笑)。
結局、トレッキングを楽しんでいた親子が湖を見つけてそこへ飛び込む、という映像を作りましたが、このCM が広告の賞を取っちゃった。予算が限られていたので企画と監督を僕が担当しましたが、これが私のデビュー作となりました。ちなみに、創刊から数か月もすると、BE-PALはばっちりカヌ ーを紹介するようになっていましたね」
転覆隊としての活動は、どのように始まったのでしょうか。
「会社を見まわすと、なんだかみんな元気がない。そんな同僚を元気にしたいと思ったのが活動のきっかけです。『サラリーマン転覆隊』と名前にサラリーマンを入れたのは、働く人を元気にしたいと思ったから。ストレス抱えているヤツや遊び方を知らないヤツを自然のなかへ連れ出して、楽しいねっていわせたかった」
転覆隊の活動と並行して、環境漫画家としても活動されていますね。
「楽しませてくれた自然へ恩返しをするべく『地球の言葉をクリエーティブしたい』という思いで環境漫画を描き続けています。きっかけは、サハラ砂漠の旅でした。 真っ赤な砂漠を進んでいると、ある場所で白い砂が広がっていた。ところが 近づいてみるとそれは砂ではなく貝殻だったんです。かつてそこにあった湖が干上がり、膨大な貝殻だけが残されていた。これには衝撃を受けました。 日本にいると世界の砂漠化をなかなか想像できないけれど、現場ではシリ アスな変化が起きていた。そしてこれは、砂時計が下から崩れているようなもので、いつか日本にも大きな変化がやってくる、そう感じたんです。この状況をどうしたら伝えられるだろう、 と考えたとき、ひとコマ漫画が思い浮かんだ。ユーモアのある一枚絵なら、 地球で起きつつあることをわかりやすく伝えられる。そう考えて、絵を学ぶところから始めました」
環境問題はBE-PALにとっても大きなテーマです。どのように伝えていくのが良いと考えておられますか?
「これからは雑誌というメディアにこだわらず、動画やイベントやワークショップなど、どんどん立体的なメディアを目指すとよいと思います。現在でも、多くの人がデジタルでは自然に触れており、遠くの雄大な自然は昔より身近になったかもしれません。しかし、デジタルには皮膚感覚がない。川の水や泥の感触、引き波が足裏の砂をさらう感じ、空気の冷たさ。デジタルには そういうものがない。
転覆隊でいちばん盛り上がるのはひっくり返って水に浸かったとき。自然に深く触れ合う瞬間に価値があり、体験を通じると自然を大切にする気持ちも生まれる。僕にとっては、転覆隊の記録も環境漫画も、その体験へと誘う呼び水のようなものです。 生身の体験こそ人の行動 を変えるきっかけになると考えています」
公式YouTubeでインタビュー動画を配信中!
動画では、カヌーイストの野田知佑さんとの出会いや転覆隊の秘話など詳しく語ってくださっています。全身で自然に浸かる体験話をぜひ、チェックしてみてください!
※構成/藤原祥弘 撮影/小倉雄一郎 聞き手/沢木拓也(編集部)