みなさん、こんにちは。ソロ秘湯愛好家のゆみです!
突然ですが、「アブラ臭」って聞いたことがありますか? 頭皮や身体から発せられるものじゃないですよ、温泉の話。この言葉を聞いて、その臭いが想像できた人は、かなりの温泉通と見ました!「アブラ臭」とはガソリン、コールタールのような香りのことで、温泉ファンの間でそう呼ばれています。油田の試掘の結果、発見された温泉などに多く漂う香りで、一度浸かると身体や洋服にしみついて、洗濯してもなかなか取れないなんてことも。 しかし、「アブラ臭マニア」と呼ばれる人も存在するぐらい、一度嗅ぐと病みつきになり、温泉ファンに大変人気があります。 今回は、そんな個性的な香りのする温泉を3つご紹介したいと思います。
アブラ臭がする湯沼!?
『クレーターの湯』(宮城県)
まず最初は、バラエティー豊かで個性的な泉質が結集している宮城県の『鳴子温泉郷』から車で約30分走った先、県道249号『岩入一迫線』付近の河原に湧く野湯。こちらにも鳴子温泉に負けないぐらい個性的な湯が湧いてますよ~。アクセスですが、道路からは決してその姿を見つけることはできず、獣道を下りて川沿いを遡上します。
小さな沢を20分ぐらい歩くと、辺り一面いたるところから白い噴気を上げて温泉が湧いている場所があるんです!「お~、ワイルド!」。でも、ここは私の目指すゴールではありません。目的地はこの噴気を越えた先にあります。
しばらく進むと、コールタールのような鼻をツンとつくアブラ臭が漂い、目の前に突然、巨大な沼が現れます。湯面にはプクプクと気泡が。じつはこれ、れっきとした「温泉」で、底から泥と一緒に熱々の湯が湧いています。しかし、まったく気持ちよさそうには見えません…見た目は、どちらかと言えば不気味で「底なし沼」のよう。
このビジュアルですから、初めて見た時は「入浴」なんて発想にならなかったものの、「せっかく宮城まで来たんだから……」と自分に言い聞かせて浸かってみました。底に高温の源泉が湧いている可能性があるので、火傷をしないようクロックスを履いて、一歩一歩底を確認しながら、沼の端から中央へと徐々に近づきます。しかし、足が泥にはまって一歩踏み出すのも一苦労、本当に底なし沼かと思ってあせりました。ようやく中央付近まで辿り着いてゆっくりと肩まで浸かる……。「うわっ、気持ちイイ!」。グロい見た目とは裏腹に、温かい泥に身体が包まれて最高に気持ちイイのです。まるで、泥湯で有名な大分県の『別府保養ランド』に浸かっているような心地よさ。ちなみに沼湯の中央、この写真の場所はかなり深くて、159cmのわたしはかろうじて足先が届くくらい。ですので、用意してた枝につかまり何とか平衡を保っている状態(笑)。みなさんは、無理なさらないで慎重に足下を確かめながら入浴してくださいね。
『クレーターの湯』
● 泉質:不明
● 色・におい・味:泥湯のようなグレー、アブラ臭
● アクセス:JR東北新幹線 古川駅から車で約1時間10分。国道108号、県道249号を経て徒歩約30分。
<注意事項>
● 登山道はないので、GPSアプリなどを使って目的地、現在地を確認しながら行ってください。
● 途中、軽い藪漕ぎと渡渉があります。登山靴、長袖、長ズボン、手袋が必要となります。
● 県道249号『岩入一迫線』は、毎年11月下旬~4月下旬冬期間の通行止めとなりますのでご注意ください。
アブラ臭と湯の美しさにファンが多い!
『国見温泉 石塚旅館』(岩手県)
野湯だけでなく、「アブラ臭」がする秘湯の宿もあります。岩手県 秋田駒ケ岳の麓にある『国見温泉 石塚旅館』。この温泉は、わたしが駆け出しの秘湯愛好家だった頃、東北の温泉師匠に連れていってもらい、その自然の神秘に価値観が一転した思い出の場所です。
何がそんなに衝撃的だったかというと……まず湯の色。「これ本当に温泉? バスなんとかっていう入浴剤入れたんじゃない?」って、目を疑いたくなるほど、ビビットな蛍光グリーン。こんな美しい色の湯、日本中探してもなかなかありません。次に臭いです! 初めて訪れた時のわたしの湯巡りメモには「ツーンと鼻をつくような墨汁の臭い」と記録していたのですが、こちらも「アブラ臭」の一種。独特なこの香りを「国見臭」と表現する人もいます。
「国見臭」は、一部の秘湯ファンから高級パフュームと同じような感覚で「最高のアロマ」として、もてはやされています。わたしも帰りの新幹線で自分の服についた臭いをくんくん嗅いで、ニンマリしてしまったほどです(笑)。
『国見温泉 石塚旅館』
● 住所:岩手県岩手郡雫石町橋場国見温泉
● 電話:090-3362-9139*衛星電話(平日 09:00~17:00)
● 営業期間:5月中旬~11月初旬(その他は冬期休業)
● 泉質:含硫黄ーナトリウムー炭酸水素塩泉
● 色・におい・味:蛍光グリーン、アブラ臭+硫化水素臭、苦み
● アクセス:JR東北新幹線 盛岡駅から。国道46号、県道266号を経て車で約50分。
温泉と言えばこの香りですが…!
硫黄臭のする温泉について、必ず知っておくべきこと!!
ところで、ココで大事なおはなしがあります。温泉地に行くと誰でも一度は嗅いだことのある、この香り『硫黄臭』がする温泉!“卵の腐敗したような独特の臭い”が漂うので、「あぁ、温泉に来たなぁ」というワクワクした気持ちを搔き立ててくれ、入ればリラックスできるというわかりやすいイメージがあるのではないでしょうか? わたしも大好きな香りの一つです。でもじつは、この硫黄臭、正式には『硫化水素臭』とも呼ばれ、「必ず臭いがする」とは限らないもので、時と場所によっては「危険」な場合があるんです。
硫化水素は、濃度が高くなると(あるいは低い濃度でも長時間吸うと)臭覚神経が麻痺し、臭気を感じにくくなることがあり、たとえ、濃度が致死量を超えるような場合でも、臭いが弱くなったように感じることがあります。ですので硫黄臭は、絶対臭いを頼りに危険かどうか判断を行なわないでください。登山道などに注意喚起の看板がある場所や、地元でも「気をつけて」などと言われる場所には絶対一人で近づかないことです(お宿など管理された温泉では、定期的に喚起や濃度の測定をしてくださっているので安心ですが)。しっかり下調べをして、ルート、天候・風向き(風が通らない場所はガスがたまりやすい)など正しい知識を持って安全に温泉を楽しみましょう。 そうすれば、こんな絶景+香りの秘湯体験もできるはずです!
イラスト:藤本たみこ/温泉巡りに憧れるイラストレーター。東京都在住。少女漫画誌でデビュー後、漫画作画・イラスト・web素材製作などの仕事を幅広く手がける。