ロシア国境と接する北カレリア地方は、東西の文化が融合した独特な文化が今でも色濃く残っています。国民的叙事詩「カレワラ」は、カレリア地方で何世代にもわたって語られてきた伝承や民謡を19世紀半ばに集めたもので、カレリア地方はフィンランドの人々にとって心の拠り所ともいえる、フィンランド人としてのアイデンティティが形成されたところでもあります。
地面が雪で覆われている季節の北カレリアの代表的なアウトドアアクティビティのひとつに犬ぞりがあります。雪のコンディションやアップダウンとカーブの頻度によって難易度が変わり、湖の上などの平らで真っすぐな道を走行するときはソリに立っているだけで大丈夫ですが、雪が固くなった春先にカーブの多い森の中を走るときには柔軟なバランス感覚が求められます。
ソリの基本構造はとてもシンプルで、前方の足元にブレーキがついているだけです。スピードを落とす時は片足で、完全に止まりたい時は両足でしっかりブレーキを踏みます。下り坂のときにはソリが犬を追い抜かないように、片足で少しずつブレーキを使います。上り坂のときに犬がソリを引っ張りきれない場合には、片足で地面を蹴って犬を助けます。
スタート前の犬は興奮状態で力が強く、ソリに乗った後は両足でブレーキをしっかり踏みます。基本はひとつのソリに対して6頭の犬がつきますが、犬の種類や大きさによって力が違うため、それぞれの人に合わせて犬の数を調整してくれます。
真っすぐな道を進む時には美しい周りの景色や走っている犬たちを観察できる余裕がありますが、スケートリンクのように雪が固くなった森の中を走る時は、まるでボブスレーをやっているかのような臨場感があります。カーブのときにはソリが少し宙に浮く時もありますが、力を抜いて膝を上手に使い、バランスを取ることが大事です。ソリの前に人を乗せると、安定感が生まれます。
「走り始めたら、まずは犬と呼吸を合わせることに集中すること。前半は慣れることで精一杯だけど、恐怖心はすぐに消えて後半は余裕が出てくるわよ」とアドバイスをくれたのは、犬ぞり使い(マッシャー)のピアさんでした。20年以上レースに参加するためにハスキーと一緒に暮らしているそうで、2日間で300キロを走行するノルウェーで行われるレースに毎年参加しているのだそうです。
北カレリアの拠点となるヨエンスーの空港から65キロ離れたヘイナヴェシ地区にある新ヴァラモ修道院は、フィンランド正教会で唯一の男子修道院ですが、ここはフィンランド国内で初めてワイン生産を始めた修道院でもあります。修道院の敷地内にはカフェやレストラン、ギフトショップ、宿泊施設があり、早朝ミサをはじめとする修道士たちの日常生活に参加することができます。
フィンランドのスーパーやベーカリーで必ず見つけるカレリアパイはカレリア地方が発祥の伝統料理です。発酵していないライ麦粉の生地に、牛乳で作ったおかゆを入れて焼きます。楕円形で模様がついた形が一般的ですが、全面をパイ生地で覆ったものもあり、具材にジャガイモやニンジンを入れることもあります。形のよいカレリアパイを作るにはかなりの時間が必要ですが、家庭料理の定番メニューとして、また結婚式などの特別なイベントでも出されるメニューとして、お母さんから子どもたちに受け継がれています。
取材協力 / フィンランド政府観光局
文・写真/東海林美紀