秋口ともなると、セミの喧騒はどこへやら。捕虫網も役目を終え、虫のシーズンはひっそりと幕を閉じる……なんて思っている人、認識を改めてください。本書には、なんと1年を通して虫と遊ぶためのノウハウが、これでもかというほどぎっしり詰まっている。扱われている昆虫は278種。著者はナチュラリスト、イラストレーターの奥山英治さん。
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遊ぶための方法だから、解説は探し方、観察のし方、飼育方法にぎゅっと絞られていて、通り一遍の図鑑的記述はほとんどなし。また、虫採りにはつきものの標本の作り方もすっぱりと切り捨てられている。実践派の奥山さんならではの構成だ。しかも、まず出会いに至るための「探し方」の話は、ほかの虫本ではまずお目にかかれない”なるほど情報”だ。
たとえば公園や街路樹などで「リリィーリリィー」と鳴いているのがアオマツムシだと知っている人は多いと思う。しかしアオマツムシは木の上部に生息し、葉の上面で鳴いているので、下から見上げてもまず見つけられない。
しかし奥山さんは、葉の縁から出ている触角(ゆらゆら動いているのだ)に注目すれば、十分採集が可能だという。そしてもっと確実な方法は、コンビニの灯りの周囲を探せ、というオチまでついている。
「ナミテントウは、冬には集団で越冬してるんだぜ」という人はいても、じゃそれを見せてと頼むとこれが難しい。しかし奥山さんは、ずばり公園の樹名板の裏を徹底的にチェックすれば、かなりの確率で観察できるという方法を明かしてくれている。
誰もが恐ろしいハチだと誤解しているクマバチだが、実は刺すのは雌だけなので、雄は手で持っても大丈夫なのだ。もちろん生態や形態からきちんと判断しないと痛い目に遭うのだが、そんなスリリングな話も出ている。
……とまあ、おもしろい話を紹介しはじめるときりがないので、あとは実際に読んでみていただきたい。この出会いさえ叶えば、観察、飼育も可能になるし自分で経験してみたくなる。一年中いつ買ってもいつ読んでも楽しめる虫本である。
<文=三宅直人>
『虫と遊ぶ12か月』
奥山英治著
デコ ¥2500+税
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