丈夫で軽量、見た目もカッコイイ……そんな山のギアが続々と世に送り出されている今、竹でストックを作ってトレイルランニングや縦走を楽しんでいる人たちがいる。彼らはなぜ竹を選んだのか?また、一見すると、竹だとわからないくらい作り込まれたストックは、どのようにして作られたのだろうか? 竹と遊ぶ人たちに話を聞いた。
竹と日本人の暮らし
竹と日本人の関係は古い。縄文時代の遺跡から竹細工が出土したともいわれている。軽くて加工しやすい素材として、竹かご、ざる、花器、農業で使う背負いかごや腰かごなどの日用品に竹は広く使用されてきた。また、茶道や華道の道具、笛などの楽器、武道の道具など、日本文化にも欠かせない素材である。
ものだけではない。「竹取物語」のかぐや姫は竹から生まれたし、かぐや姫を見つけたおじいさんは竹細工を作る仕事をしていた。慶事・吉祥のシンボル「松竹梅」で知られるように、折れにくく成長が早い竹は「生命力・成長・繁栄」の象徴とされてきた。また、春の味覚といえば、タケノコ。竹は身近な植物あり、日本人の暮らしに今も深く溶け込んでいる。
そんな竹をスポーツの道具として使用するのは、自然な流れなのかもしれない。
使ってみたら意外とよかった竹ストック
佐藤圭介さんは、実家の300坪の竹林の整備を10年以上続けている。もともと山を走るトレイルランニングを趣味としていたので、広大な竹林の整備を体力のある友人たちに手伝ってもらおうと呼びかけ、仲間たちと定期的に竹林整備やタケノコ堀りなどを始めた。そして、2014年に「竹トレらん部」というチームを発足した。その活動の中で、竹ストックが生まれた。
日本では、トレイルの保全という観点から、ストック(ポール)が使えるレースが少ないので、ストックを持っていなかったという佐藤さん。しかし、装備のすべてを背負って、読図や野営をしながら進む、山岳レース「OMM」に出場することになり、そのレースのための練習として、身近にある竹をストックとして山を走ってみたところ、思いの他、調子がよかった。
「竹だったらタダだし、レース中に折れてもがっかりしなくていいから」と、練習で使っていた竹ストックでレースに出場。最後まで折れることなく、竹ストックは佐藤さんの相棒として活躍してくれた。
佐藤さんが竹ストックで出場したレースのブログをたまたま見た横山博之さんは、「なんだこのストックは!」と強い興味を抱き、その後、竹トレラン部に加入。
農学部の出身で、勤めている会社の緑地の管理を任されている横山さんは、緑地整備で出た不要な竹から、竹ストックに向いている竹を探し始め、ストックとしての精度を高めるべく、楽しみながらも日々試行錯誤を積み重ねていった。現在では、チームの「竹ストック製造部長」として、素材を整え、チームメンバーに竹を渡しているという。
横山さんによると、竹ストック作りで重要なのは素材選びだそうだ。では、竹ストックの具体的な作り方を見ていこう。
竹トレらん部推奨!竹ストックの作り方
・竹ストックに適している竹は、ダイミョウチクやシノタケなどの細い竹。
・竹を取る時期は毎年2月ごろ。竹が水分をあまり吸い上げていないので乾燥させやすい。
・きれいな緑色をした若い竹ではなく、生えてから2~3年経った竹が適している。黄色っぽい見かけなので区別がつく。青竹は水分をしっかりと含んでいるので、乾燥させたと思っても、割れたりしなびたりしまうことがある。2~3年経っている竹は水分が少なく乾燥させやすい。
・できるだけ太さや節の長さが同じ竹を選ぶ。
・竹をしっかりと乾燥させたら、節から4~5cmの長さのところで、ストックの先端部分をカットする。こうすると、先端部分にヒビが入っても、ストック全体が割れてしまうのを防げる。
・竹は身長や手の長さに合わせ、自分で好みの長さにカットする。これで基本の竹ストックは完成。
・先端に、市販されているストックのゴムキャップを付けると、竹ストックのダメージを格段に減らし、長持ちするのでオススメ。
・長距離や長時間使う場合は、グリップをつけると良い。竹の直径に合った釣り用のグリップを使用すると、持ちやすくなり、疲れにくくなる。
グリップと先端にキャップを付けても、1本あたりの重さは約100g(卵2個分ほど)。もっと軽量なストックはあるが、竹ストックもかなり軽い。大事に使えば、数年は保つそうだ。
竹で遊ぶ魅力
「竹ストックは、市販のストックのように折り畳めないので、レースや縦走が終わるまで、ずっと持ってないとならないんです。その不便さが返っていい。使えば使うほど愛着が湧いて相棒のようになっていきます。レースの途中で竹ストックを受け取ったら、『これでもうイケる!』とテンションが上がる。軽くて強いことがわかっているので、頼もしい味方を手にしたように思うんです。そして、この竹ストックをフィニッシュまで連れて行くぞっていうモチベーションにもなります」と語る佐藤さん。竹ストックへの愛が溢れている。
竹トレらん部メンバーが作る竹クラフトはストックだけではない。レース中のエイドステーションで使う竹コップ。緊急時に使う竹ホイッスル。チーム名を書いた竹プレート。竹で楽しみたいという遊び心が満載だ。
「これから、作りたいのは、竹を素材としたテントですね。そうそう、竹灯篭(たけどうろう)にキャンドルを灯すと、幻想的でいい雰囲気だし、全長30mの流しそうめんもおもしろいです。竹はイベント作りにピッタリの素材なんです。あ!竹でいかだを作ってレースに出たこともありますよ!」(佐藤さん)。
「僕は、横笛をたくさん作っているところです。地元の子どもたちがお祭りで使う横笛を、すべて竹で作りたいと思っています」(横山さん)。
いい大人たちが竹クラフトについて話している姿は、実に楽しそうだ。昔の日本人もこんな風に工夫して、楽しみながらいろいろな竹製品を生み出してきたのかもしれない。
竹の魅力は、手に入れやすく、節があり棒状であることから、木に比べて加工しやすいことだそうだ。竹が身近にないという場合も、ホームセンターで支柱用の竹を手に入れれば、ストックが作れるという。
竹林の整備をして、不要な竹を使って楽しむ。まさに今の時代に合ったサステナブルな活動だ。これから広まっていく予感がする。
文=一瀬立子