牛、豚、馬……レザー製品に使われる革の種類はさまざまだが、富山県氷見市には、なんと〝魚の革〟で作るサンダルがあるという。その名も「魚々サンダル」。魚々を「トト」と読み、略して「トトサン」などと呼ぶ。
氷見市は能登半島の付け根に位置し、古くから漁業が盛んな町。とくに脂ののった寒ブリが捕れることで有名だ。「魚々サン」を作っているのは、地元のアート系NPO、ヒミング(himming)の方々。
「ヒミングでは、氷見にある素材を新しい視点で捉え直して、さまざまな面白いプロジェクトを実行しています」とメンバーの高野織衣さんは話す。「魚々サン」は、氷見でオーダーメイド靴屋を営んでいる釣賀愛さんのアイデアだ。
「世の中にはいろんな種類の革が存在するのだから、魚の革があってもいいと思いました。氷見で捕れる魚の皮を、捨てずに再利用できたらいいですよね」
革のなめしは未経験だった釣賀さん。魚屋や寿司屋から魚の皮を集め、試行錯誤を繰り返したそう。皮から身を完全にはぐことや、生臭さを取りのぞくことに、苦労したとか。
そうしてできた魚の革は、ほかのどのレザーにも似ていない、独特の風合い。しかも魚の種類によって模様も厚さも千差万別なのが面白い。氷見では多種多様な魚が捕れるため、その分、革の種類も豊富に作れる。
今回、編集部もこの魚々サンダル作りに挑戦! まずは革選びから。悩んだ結果、オニカジカをメインにタイやヒラメ、ブリなど7種類を使うことにした。オニカジカは独特な柄の濃淡とテカり具合が気に入った。ただし魚自体が大きくないので、革の面積も狭い。型紙を当てて足りない部分は違う魚の革をつなぐ。体の大きいマグロのほうが革に向いていそうだが、「鱗が皮の内側に入り込んでいて、なめせなかった」とのこと。
作業工程は、型紙に合わせて革を切り、接着剤と金具で各パーツをつなげるという、シンプルなもの。しかし、いかんせん慣れない作業。魚の革はザラっとした質感があり、カットするにも接着剤を塗るにもコツがいる。さらに、想像力の乏しさにより、つなげるパーツを間違えるなど、テンヤワンヤ!
それでも、完成品は上出来で、思わず拍手をしてしまったほど。市販の革サンダルよりも存在感があり、なんだかおしゃれな仕上がりだ。「このベルト部分はサケで、かかとはブリで…」などと話のネタにもなる。この夏は「魚々サン」で人気者になるぞ!
魚々サンのワークショップ(¥12,000~¥18,000)は、ひみ漁業交流館 魚々座にて不定期開催。http://himi-totoza.com
文/吉田真緒 撮影/木原盛夫