夏の大三角形と天の川
天の川が見やすい季節になってきました。天の川のまわりに夏の星座も集中しています。夏の星座といえば、前回、七夕のお話でもご案内したこと座、わし座、そしてはくちょう座が代表的です。この3つの星座の、それぞれの1等星を結ぶと夏の大三角形になります。
天の川を南に下っていくと、もうひとつ夏らしい星座、さそり座があります。S字カーブの真ん中あたりで、ひときわ赤く輝く星が1等星のアンタレスです。
さそり座のしっぽのあたりからいて座にかけてが、天の川がもっとも明るく見えるところです。この方角に天の川銀河の中心があるからです。天の川銀河の天体が、いちばんたくさん見える場所です。天の川が見えるほど暗い場所でなくても、さそり座のしっぽあたりを狙って双眼鏡を向ければ、驚くほどたくさんの天体が視野に入ってきます。
さそり座は地平線からあまり高く上らず、東京では、S字カーブの下が10度くらいまでしか上りません。空の低いところを横切っていくだけに、いっそう迫力を増して見えるとも言えますが、滞空時間が短いのもこの星座の特徴です。夏の星座ではありますが、もっとも見やすい季節は7月、場所によっては梅雨の最中ということで、有名なわりに見頃が短い星座です。7月中にしっかり探しておきましょう。
さそりのハサミはどこにある?
さそり座はアンタレスのほかにも明るい星が多く、暗い場所では、S字カーブがよく見えます。一方、さそりの武器であるハサミの部分がよく見えません。理由は、西側に位置するてんびん座にあります。
実は昔、てんびん座のあたりも、さそり座の領域でした。
さそり座もてんびん座も、古代メソポタミアでつくられた黄道12星座です。ただ、さそり座を描いたと思われる図像が紀元前2500年ごろには登場しているのに対して、てんびん座が登場するのは紀元前1000年ごろまで待たなければいけません。元々のさそり座は大きかったのですが、黄道12星座を定めるにあたってハサミの部分を独立させて、てんびん座としたようです。
てんびん座の星、ズベンエシャマリという星は「北のハサミ」、ズベンエルゲヌビという星は「南のハサミ」を意味するアラビア語が語源です。てんびん座が独立した後もこの領域は「ハサミの星座」と呼ばれることが多く、その名残をとどめているのです。そんなわけで、本来のさそり座は今よりも雄大に、立派なハサミを振り上げていたのです。2つの星は暗くて見つけにくいかもしませんが、そんなときはモバイルアプリ「星空ナビ」を活用して探してみてください。
海に浮かぶ「釣り針星」を探せ
ところで、さそり座のS字カーブを、古代メソポタミアの人々はさそりに見立てましたが、日本では釣り針です。「魚釣り星」「釣り針星」といった名前で知られていました。夜、海釣りに出た漁師には、水平線の近くに上るS字カーブが、海に垂れる釣り針に見えたのでしょう。アンタレスはその色の通り、赤星と呼ばれていたようです。夏の夜空、釣り人や航海中の人々にとって、大事な目印になっていたことでしょう。
もうすぐ夏休み。海辺で夜を過ごす機会があるときはぜひ、さそり座のハサミと釣り針探しをお楽しみください。くれぐれも感染症対策と虫対策をお忘れなく。
構成/佐藤恵菜