2020年に東京から長野県佐久市に移住した筆者が綴る、リアル移住事情。東京の会社を退職したあと、新しい土地でどのように仕事をしているかお伝えします。
地方都市の就職事情
これまでの記事でも少し触れましたが、移住をしたあとは、夫は新幹線通勤、私はフリーランスライターとして在宅ワークという計画を立てていました。しかし実際は、移住と同時にコロナ禍になってしまい、夫はほぼ完全テレワークに。私も、取材などは基本的にオンラインで(少し味気ない感じもありますが)、首都圏に出ることはほとんどなくなりました。
フリーランスと書きましたが、私の場合、退社したことで、いったん仕事がゼロ、つまり無職状態になったわけです。一瞬、転職ということも考えて佐久の求人情報を調べたこともありましたが、地方都市の佐久では、首都圏と就職事情がかなり異なっていました。
まず圧倒的に求人の数が少ないです(コロナ禍というせいもあったかもしれませんが)。また、正社員は事務職がほとんど。業種は、建設会社、工場、医療関係などが多いように思います。ホテルやリゾート施設などの観光業や、ショップ店員といったサービス業は、パート・アルバイトがほとんどです。そして、私ができる「編集・ライター」という職種の募集が出ることは、まずありません。
ただし地方都市でも色々で、長野市だと求人数はかなり増えますし、職種も多く、編集という仕事も時々目にします。しかし、長野市への通勤となると、新幹線や高速道路を使うなど、時間やお金がかかってくるのが難点でした。
正直、経験のない職種に転職してイチから頑張るよりも、これまで培ったキャリアを生かしたいと思いました。編集者としての経歴はそこそこ長かったので、これまで築いた人脈で、東京の出版社から仕事をいただけるように頑張ろうと考えました。佐久から東京までは新幹線で1時間半ほどですし、打ち合わせや営業活動で東京まで出るのは負担ではありません。
新しいスキルを身につける
私はフリーランスとして活動するにあたって、以前から身に着けたいと思っていた技術を勉強することにしました。それは、Adobeのレイアウトソフト(PhotoshopとIllustrator、InDesign)の使い方です。実は、会社に勤めていたころから、暇な時間にちょこちょこ勉強していたのですが、やはり独学での習得は難しく、無職になったついでに、半年ほど学校に通ってしっかり勉強することにしました。
レイアウトソフトの勉強をした理由は、興味があったというだけでなく、地方に住むうえで、今後の人生に生かせると考えたからでもありました。先にも書いたように、肩書きが「編集・ライター」だけだと、東京方面の仕事がメインとなります。せっかく長野県に移住したのだから、地元に貢献できるような仕事もしてみたいという思いがありました。そのために、編集・ライターだけでなく、パンフレットやチラシの制作の仕事を、ひとりで最後まで形にできるようなスキルが欲しいと考えたのです。
いちおう学校で一通りのスキルを身に着け、無事に卒業はしました。今まで、知り合いからのお声がけで、スキー団体の会報誌や、保育園のパンフレットなどのお仕事をいただきましたが、経験値としてはまだまだ少ないです。こちらも少しずつ実績を積んでいきたいと思っています。
小さなビジネスをいくつも掛け持ちする
地方都市では求人数は少ないと書きましたが、まったくない訳ではなく、アルバイトやパートも含め「業種や職種、雇用形態を選ばなければ」、いつも求人は出ています。
地方では、季節を限定して働き、年間でいくつかの仕事を掛け持ちしている人は、珍しくありません(とくに農家さんとか)。東京よりもビジネスの規模が小さいぶん、小さな仕事をいくつも掛け持ちするという形態は、地方では合っているように思います。
私の場合も同様でした。近くのスキー場で、知り合いがスキースクールの校長をされていて、冬の期間だけ、スクールでアルバイトをさせていただくことになりました。
子どもたちにスキーを教えることは初めての経験でしたが、趣味で続けてきたスキーの仕事ができるのもチャンスだと思い、とりあえず挑戦してみました。最初は不安もありましたが、子どもたちにスキーを教えるなかで楽しい時間を共有し、レッスンの最後に子どもたちが「楽しかった」「またやりたい」と言ってくれると、本当に嬉しくなります。こんな新しい喜びや発見ができたのも、いったん仕事をすべて手放したからかもしれません。
また、スキースクールの仕事を通して、地元に長く暮らしている方と親しくなれたのも、嬉しいことでした。移住者同士の交流では得られない、佐久の地元情報や歴史などをいろいろと教えていただけました。
本業は編集・ライターだけれども、ときにはデザインの仕事もやったり、ときには子供たちにスキーを教えたり、スキースクールの事務もやったり……。ときどき、私の職業はなんだろうと思うこともありますが、すべてをひっくるめて私なんだと思います。そして、いまは新天地に馴染むためにも、いろんなことに積極的に関わっていこうと思っています。