トレッキングは気軽な登山というイメージですが、軽装・軽装備での決行は事故やトラブルにつながります。自然の中を歩くのにふさわしい服装・装備をそろえ、安全に山歩きを楽しみましょう。トレッキングの服装の選び方や必要な装備などを紹介します。
トレッキングとは?
アウトドアアクティビティとして幅広い年代に楽しまれているのが『トレッキング』です。登山やハイキングと混同する人も多いようですが、どのような点が異なるのでしょうか?
トレッキングの概要と登山・ハイキングとの違いを紹介します。
登ることにこだわらない山歩きを指す
トレッキングの語源は、移動を意味する『Trek』です。アウトドアアクティビティについていうときは、高山の山麓などを徒歩で移動することを指します。
主目的はレジャーや健康増進で、必ずしも山に登ることにはこだわりません。アウトドア初心者や体力に自信のない人も、自分のペースで楽しめるでしょう。
なお、トレッキングの主なフィールドは山ですが、渓流に沿って歩く『リバートレッキング』や雪の中を歩く『スノートレッキング』もあります。上級者の中にはいくつもの山を縦走する人もおり、楽しみ方は多彩です。
登山やハイキングとはどう違う?
登山・トレッキング・ハイキングの違いは、歩く場所の難易度です。一般に、難易度の高い順から、登山・トレッキング・ハイキングと認識されています。
まず登山は、山頂を目指すのが基本です。距離は長く標高差もあり、難所に遭遇することも多々あります。軽い装備では心許なく、登山用の装備が必要です。
一方ハイキングは、整備されたなだらかな山道を歩きます。ハードな運動というよりはレジャーの意味合いが強く、軽装で楽しめる場所も少なくありません。
トレッキングはハイキングよりハードですが、登山よりは気軽です。ただし歩行難易度は、選ぶルートによって大きく異なります。
例えば、山を縦走するなら、登山並みにハードな行程となることもあるでしょう。
「トレッキングの服装」基本は重ね着
常に快適な体感温度を保てるよう、トレッキング中の服装は『3層の重ね着』が基本です。重ね着は『レイヤリング』と呼ばれ、層ごとにアイテムを選ぶポイントは異なります。
トレッキング中、どのような衣類を重ねればよいか見ていきましょう。
ベースレイヤー
ベースレイヤーは『インナーレイヤー』とも呼ばれます。3層のうち1番下に着用するもので、いわゆる『肌着』と同義です。
ベースレイヤーを着用する主な目的は、保温です。トレッキング中にかいた汗を放置すると、やがて汗が冷えて体温が奪われます。ベースレイヤーで汗を吸い取って、体をドライに保つことが必要となります。
例えば吸湿速乾性の高いメッシュや化繊素材のベースレイヤーを着用すれば、快適に過ごしやすくなるでしょう。
反対に、避けたいのは綿素材です。綿は吸水・吸湿性が高い一方で、速乾性はありません。着用すると体温が低下しやすくなります。
ミッドレイヤー
ミッドレイヤーは『ミドルレイヤー』とも呼ばれます。ベースレイヤーの上に着用し、吸い取った汗や湿気を乾燥させるために必要です。寒い時期は保温着を兼ねることもあり、保温目的で着用する衣類は『サーマルレイヤー』とも呼ばれます。
ミッドレイヤーも汗を放出できるよう、通気性・速乾性が重要です。例えば、速乾性の高いポリエステル素材のシャツなどを選ぶとよいでしょう。
一方、保温目的でサーマルレイヤーを着用する場合は、保温性が高いフリースやインナーダウンなどが適しています。フロントジップタイプなら、小まめな着脱も容易です。
アウターレイヤー
レイヤーの1番外側に着用します。風雨・雪・外気から身を守るのが目的で、季節によって厚さや素材を変えるのが一般的です。
例えば、動きやすさを重視したいときは、薄手で軽量な『ソフトシェル』を選ぶとよいでしょう。防水性は高くないものの、小雨程度なら問題ありません。
一方、豪雨・強風の悪天候下では、風雨に強い『ハードシェル』がおすすめです。快適性も追求したいなら、防水性が高く透湿性もある『ゴアテック』素材を選ぶとよいでしょう。
ただし、トレッキング初心者の場合、あまりに高機能なアウターレイヤーはオーバースペックかもしれません。ハイキング程度のコースを歩く場合は、脱ぎ着しやすいウインドブレーカーなどでもOKです。
季節ごとにおすすめな服装
日差しが強い春夏と外気温が下がる秋冬では、トレッキングで選ぶべき服装も異なります。四季それぞれにどのような服装をすべきか、おすすめを見ていきましょう。
春におすすめな服装
春は寒暖の差が大きい季節です。街中は暖かくても、山の気温はそれほど上がりません。陽気がよくても油断せず、適切に防寒対策をして出掛けるのがベターです。
春のトレッキングには、次のような服装をおすすめします。
- ベースレイヤー:ウールや化繊の長袖・中厚の肌着
- ミッドレイヤー:フリース・ウール素材の長袖
- アウターレイヤー:ソフトシェル・ウインドブレーカー
アウターレイヤーは重ね着しやすいよう、少し大きめを選びます。ボトムスは登山タイツ+パンツの組み合わせで、足首までしっかり覆いましょう。
また、薄手のダウンジャケットを携行しておくと、寒さを感じたときに頼りになります。
夏におすすめな服装
夏は外気温が高いものの、肌の露出は控えます。日焼け・虫刺され・ケガを防止するため、山に入る服装は長袖・ロングパンツが必須です。ハーフパンツやスカートを選ぶ場合は、下に登山タイツを着用しましょう。
夏のトレッキングには、以下の服装をおすすめします。
- ベースレイヤー:化繊の半袖
- ミッドレイヤー:ポリエステル素材の長袖シャツ
- アウターレイヤー:レインウェア
夏は汗をかきやすいため、インナーレイヤーからアウターレイヤーまで速乾性・透湿性が高いことが必須です。
また、夏のアウターレイヤーは軽量なレインウェアを選ぶと荷物の負担を減らせる上に、山の天気の急変にも対応できます。ただし購入の際は、必ず防水・透湿性の有無をチェックしましょう。
秋におすすめな服装
秋は寒暖の差が激しくなる季節です。服装は『保温性』を重視して、寒さを感じずに済むようにします。
また、ボトムスはロングパンツが基本です。外気温によっては、その下に登山タイツを着用することも検討しましょう。
秋のトレッキングには、以下のような服装がおすすめです。
- ベースレイヤー:化繊の長袖シャツ
- ミッドレイヤー:フリース
- アウターレイヤー:ソフトシェル・レインウェア
秋でも初秋の場合は、まだ夏の日差しが残っています。ベースレイヤーは半袖を選んでも問題ありません。
一方、ミッドレイヤー・アウターレイヤーは速乾性と防水性を重視して、秋ならではの気候の変化に対応できるようにしておきましょう。
冬におすすめな服装
冬は外気温が上がらず、寒さを感じながらのトレッキングとなります。厚手の防寒着を着用し、保温に努めましょう。
また、寒さが厳しいと体の動きも堅くなりがちです。服装を選ぶときは、動きやすさも重視する必要があります。
冬のトレッキングにおすすめの服装は以下の通りです。
- ベースレイヤー:ウール素材の長袖
- ミッドレイヤー:インナーダウン
- アウターレイヤー:ハードシェル
アウターは雨・雪に強いゴアテック素材がおすすめです。
ボトムスは、厚手で裏起毛のパンツを選ぶと快適です。保温性と防風性も重視して、寒さから身を守りましょう。撥水加工が施してあるものなら、小雨が降っても問題なく過ごせます。
トレッキングでは足元も重要?
トレッキングでは服装だけでなく、足元にも気を配る必要があります。現在トレッキングシューズを持っていない人はなるべく早めに購入し、本番前に歩く練習をするのがおすすめです。
トレッキングシューズが必要な理由と、選ぶときのポイントを紹介します。
専用シューズの必要性
トレッキングシューズは通常のスニーカーなどと比較して、『ソールが堅い』『履き口が高い』という特徴があります。これは、トレッキング中の足の疲れやケガを防ぐ上で有益です。
山道は補整されていない場所や岩場などがあり、歩行が不安定になることが少なくありません。ソールが堅い靴の方が安定しやすく、靴底が破損しにくいのです。
また、履き口の高いトレッキングシューズは、足首を固定する効果があります。不安定な足場や下り道などでも歩行が安定しやすく、足のずれや捻挫を防止します。
このほか、『滑りにくい』『防水性が高い』などの特徴もあり、トレッキングシューズは山道を歩くには最適な仕様です。
選び方のポイント
トレッキングシューズを選ぶ際は、『履き口の高さ』『ソールの堅さ』を重視します。
トレッキングシューズには、履き口の高い順から『ハイカット』『ミッドカット』『ローカット』があります。このうち最初の1足にふさわしいのはハイカットまたはミッドカットです。足首を固定する力が強く、長距離歩行が楽になります。
また、履き口の高さは同じでも、ソールの堅さはさまざまです。
通常の道ではソールが柔らかい方が歩きやすいものですが、山道のような不安定な場所は、硬いソールの方が疲労を軽減してくれるのです。初心者なら疲労が蓄積しにくい、硬めのソールがよいでしょう。
なおトレッキングシューズを選ぶときは、試着は必須です。靴の先端につま先が当たるように足を入れ、以下のポイントをチェックしましょう。
- かかとに指を入れると指1本分の余裕があるか
- 甲・側面に圧迫感がなくフィットしているか
特にフィット感に問題のない場合でも、実際に店内を歩いてみると足に当たる部分などが分かります。試し履きしてフィット感を確かめましょう。
持っておくと便利になるアイテムについて
トレッキングを安全に楽しむ上で、装備を充実させることは大切です。トレッキングでは、どのようなアイテムを持参するとよいのでしょうか?服装以外に気を付けたい装備のポイントを紹介します。
帽子・日焼け止めなど日差し対策
一般に、高所に行くほど紫外線量が増すといわれます。トレッキングを楽しむ際は、紫外線対策を充実させましょう。肌が露出している部分に日焼け止めを塗布するのはもちろん、サングラス・帽子の着用も必須です。
無防備な状態で山を長時間歩くと、日焼けで真っ赤になることもあります。特に首回りは忘れがちなので、タオルを巻いたり日焼け止めをしっかり塗ったりなどして保護しましょう。
登山用の水と行動食
飲まず食わずでトレッキングすると、脱水症状や低血糖を引き起こす恐れがあります。トレッキングでは水と行動食を携行し、適宜水分・栄養補給を行いましょう。
水分補給のポイントは、少しずつ小まめに飲むことです。季節・コースの難易度・装備の重さなどにもよりますが、およそ30分ごとに100~150mlを飲むのがよいといわれます。
また汗をかくと、塩分が失われて熱中症になる可能性があります。汗をたくさんかく季節は、スポーツドリンクも持参しましょう。
一方、行動食とはすぐにエネルギーチャージできる簡易食料です。『高カロリー』『軽量』『傷みにくい』ことが必須で、休憩の合間に口にします。ゼリー飲料やシリアルバーなどがよいでしょう。
もしものための非常用アイテム
自然の中には便利なコンビニなどはありません。ケガ・事故などへの備えは必須です。
- 救急セット
- スマートフォン
- ツェルト(簡易テント)
- エマージェンシーブランケット
- 保険証コピー
- 個人情報
- 筆記具
- 簡易トイレなど
小さなケガは救急セットで処置できます。
一方動けないときや遭難したときは、スマホで助けを呼びましょう。このとき『ツェルト』『エマージェンシーブランケット』などがあると、体力を温存しやすくなります。病院に行くことも考えて、保険証コピー・個人情報・筆記具も持参しておくと安心です。
また、トレッキングルートにはトイレがないことも少なくありません。携帯トイレがあれば、いざというとき困らずに済みます。
まとめ
トレッキングの服装はレイヤリングが基本です。季節に合わせてベースレイヤー・ミッドレイヤー・アウターレイヤーを選び、汗冷えや低体温症を防ぎましょう。足元はトレッキングシューズを着用すると、足運びも楽になります。
また服装だけではなく、トレッキングでは日焼け対策・水分栄養補給対策・ケガ対策なども必要です。自然の中を行くトレッキングは、装備・アイテムの充実が欠かせません。きちんと準備を行って、不安なくトレッキングを楽しみましょう。