ライターやマッチがない時代はどうやって火をおこしていたのだろう? そう思ってポケットから取り出した100円ライターをひっ込めた。ちょっと不便を楽しむのがアウトドア遊びのコツだから、焚き火だって火おこしからはじめれば大人の知的遊戯になる。
古代式火おこし名人の関根秀樹さんに火打ち石発火法を教わった。自然の産物から火を作り、育ててみると焚き火の正体が見えてきたぞ。まず取り出したのは、木製の取っ手がついた火打ち金と何やらあやしい石の欠片(かけら)。
「この石は、茨城県の久慈川で採取できるメノウという硬い石です。地方によっては水晶や黒曜石なども火打ち石として使われていました」
この火打ち石の上にガマの穂を乗せ、火打ち金を勢いよく打ちつける。次の瞬間には、ガマの穂がメラメラと赤くなっているではないか。
「鋼が削られてできた火花で灰汁を浸み込ませたガマの穂に点火する。ガマの穂の繊維は、木綿の1/10の細さで火がつきやすいんです」
関根さんの俊敏な動きから一瞬たりとも目が離せない。すかさず赤くなったガマの穂をふわふわにほぐした麻で包み込む。すぐに関根さんの口から鋭い風がガマの穂へ送り込まれた。次の瞬間、今度は麻を持った右腕を振り回しはじめた。矢沢永吉がスタンドマイクをぶんぶん振り回すかのように! すると暗闇の中で関根さんの右手が「ボワッ」と太陽のように燃え上がった。
お見事。わずか十数秒で米粒ほどの火花を一人前の焚き火に育てあげた。数万年前の祖先も見ていたこの炎は、なんだかいつもより柔らかく、温い気がした。
関根式「美しい火」の作り方
1火打ち石と火打ち金を用意する
炭素鋼の火打ち金と火打ち石(メノウ)を用意。
2火種をつくる
3ガマの穂に点火
火花が火打ち石の上の火口(ほくち=ガマの穂)に!
4麻で火種を包む
5空気を送り込む
火口に息を吹きかけ、振り回して空気を入れる。
6火を育てる
炎が上がったら焚き付けの下に入れ火を育てる。
関根式焚き火道具
焚き付けはアイヌ風
乾いた枯れ葉や小枝がなくとも、このように一見なんでもない薪もナイフで毛羽立たせれば、立派な焚き付けになる。
火を育てる火吹き竹
火が弱くなったり、くすぶりはじめたら火吹き竹で空気を送る。
上が東南アジア型、下は関根氏特製のトルネード式尺八型。穴と各所に工夫がある。