今年の秋、金星の動きはいつもと違う!?宵の明星の軌跡を読み取ろう
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    2021.09.06

    今年の秋、金星の動きはいつもと違う!?宵の明星の軌跡を読み取ろう

    秋の宵の明星が、西の空低く輝くわけ

    今月は宵の明星、明けの明星と呼ばれる金星のお話をしましょう。

    9月現在、金星は宵の明星として西の空に輝いています。が、今回注目したいのは、やたらと低い位置に留まっていることです。実は、今年の6月頃から金星はずっと、ほぼ同じような高度を保っています。木星や土星、火星などの惑星は観察を続けていると、だんだんと高くなったり低くなったりするものですが、今回の金星は高く上りません。

    金星は地球より内側を回っているので、いつも太陽の近くに見えています。現在、金星と太陽は少しずつ遠ざかっていて、1030日に最大距離の46度に達します(これを最大離角といい、金星が一番見やすい日)。ところが、日没後に見える金星の高度は、6月から10月までほとんど変わらず、ずーっと低いままです。なぜでしょう。

    金星と太陽が46度離れているのなら、太陽が沈んだ瞬間は金星の高度が46度になるのかと言えば、そうではありません。金星の軌道が傾いていれば、それだけ日没時の高度は低くなってしまいます。仮に軌道が地平線に対して完全に寝ていた場合、金星と太陽はどんなに離れていても同時に沈むことになるのです!

    金星の通り道は、太陽の通り道=黄道とほぼ同じです。ですので、金星の高さは、西に沈む黄道の傾き次第ということになります。太陽を追いかけるように西に沈む黄道が一番起き上がっているのが3月下旬の春分のころで、一番倒れているのが9月下旬の秋分のころです。そのため、秋の宵の明星はずっと低空にあるのです。また、6月からほとんど高度が変わらないのは、太陽との距離は増えているのに黄道の傾きが大きくなり、相殺されてしまうからです。

    金星は8年ごとにほぼ同じ軌跡をたどる

     金星の公転周期は225日。地球が太陽の周りを8周する間に、金星はほぼぴったり13周します。金星の方が5周多いので、地球が太陽を8周、つまり8年経つと、その間に金星は地球を5回追い抜くことになります。地球からみれば、その8年の間に、金星は宵の明星になったり明けの明星になったりのサイクルを5回繰り返すことになります。地球と金星の公転周期がきれいにそろっているおかげで、地上で観察すると金星は8年毎にほぼ同じ位置に戻ってきますし、その間の動きも8年毎にほぼ一定です。そのため、金星の動き方はだいたい予測がつきます。

    2013年に始まる5サイクル分の宵の明星の軌跡(赤~紫)。2021年の宵の明星の動き(白)は8年前の2013年(赤)とほぼ同じ軌跡をたどる。(画像:ステラナビゲータ/アストロアーツ)

    明けの明星も同様に、東の空で5種類のパターンを8年ごとに繰り返します。

    紀元前から16世紀にわたってメキシコ・ユカタン半島に栄えたマヤ文明では、こうした金星の運行を基にした「金星暦」が作られていました。金星の動き方を正確に観測していたようです。

    宵の明星はジワジワ上がり、明けの明星はジワジワ下がる

    宵の明星だったのが明けの明星になり、明けの明星だったのが宵の明星になりと、ちょくちょく入れ替わるのも金星のおもしろさです。

    基本的に宵の明星は、西の空に現れてから数か月かけてジワジワと地平線から高く離れていきます。今年のように黄道の傾きに影響されることもありますが、基本的に太陽から一番離れたときが、夕方の空で一番高く、明るく見える時期です。しかし一旦そこに達すると、みるみるうちに高度を下げて、1〜2か月くらいで太陽の方へ移動してしまいます。そして西の空から消えると、すぐに東の空に明けの明星となって現れます。明けの明星は、出現してから1〜2か月で見頃を迎え、その後ジワジワと数か月かけて低くなって消えていきます。

    もちろんサイクルによって差はありますが、宵の明星はジワジワ上ってきてスッと消え、明けの明星はスッと明るくなってジワジワ消えます。

    その理由は、視点を少し遠くに移して金星と地球の動きを見れば分かります。

    太陽、金星、地球の公転俯瞰図。(画像:ステラナビゲータ/アストロアーツ)

    この図では、地球の北半球側を見下ろすように金星と地球の軌道を描いています。金星も地球も反時計回りに太陽の周りを公転していますが、内側の金星の方が回転が速いので、地球を固定しても金星が反時計回りで回っているように見えます。さらに、地球の自転も反時計回りです。太陽が上にあるので、上半分は昼、下半分は夜です。反時計回りに自転しているので、左側が地球の夕方(昼から夜へ移り変わる)、右側が明け方(夜から昼へ移り変わる)だとわかります。

    というわけで、この図の左側、地球から見て金星が太陽の東側にある時期が宵の明星ゾーンです。反対に、金星が地球から見て太陽の西側にあるときが、明けの明星ゾーンです。さて、地球から金星の軌道にぴったり接する線をのばすと、そこが金星が太陽から一番離れる(直線距離で46度)タイミングとなります。これを左の宵の明星側では「東方最大離角」、右の明けの明星側では「西方最大離角」と呼びます。ちなみに、今年の東方最大離角は1030日です。

    図を見ると、金星が太陽の東側(左側)に移ってから東方最大離角になるまでの期間は、東方最大離角を過ぎて再び太陽と同じ方向に移るまでの期間に比べてずっと長いことがわかります。そのため、地球からみると宵の明星は見え始めてからジワジワと高度を上げて、東方最大離角になると一気に隠れてしまうのです。そして明けの明星となってからあっという間に西方最大離角になると、ジワジワと低くなっていきます。東方最大離角から西方最大離角の間は、金星と地球の距離が近いこともあって、見かけの動きがとても速くなっています。

    たとえて言うなら、スピードの速い車が、遅い車に後ろから追いつき追い越す現象に似ています。速いほうの車が金星、遅いほうが地球です。速い車が後ろから追ってくるとき、見た目はジワジワと迫ってきますが、追い抜かれる瞬間はビュン!とすごいスピードを感じます。そして、あっという間に遠くに走り去りますが、だんだんとその遠ざかり方がゆっくりになりますよね。そんなスピードの緩急を金星の運行に感じられたら……りっぱな金星マニアです。

    理科の授業のようなお話になりましたが、なにはともあれ金星はあのキラキラした輝きが魅力。西の低空とはいえ宵の明星はとても明るいので、スマホでもばっちり撮影できると思います。夕焼けの色は毎日違います。秋の夕暮れのグラデーションを狙って撮影してみてはいかがでしょう。

     構成/佐藤恵菜

    私がガイドしました!
    星空案内人
    廣瀬匠
    星空案内人 天文系ライター。株式会社アストロアーツで天文ニュースの編集などに携わる。天文学の歴史も研究していて、パリ第7大学で古代インドの天文学を 扱った論文で博士号を取得。星のソムリエ®の資格を持つ案内人でもある。アストロアーツより、宇宙の不思議に出会うモバイルアプリ「星空ナビ」iPhoneAndroid版無料公開中。

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