2021年1月よりBE-PAL.NETでスタートした、ローカルに根づいたクラフトビールを紹介しているシリーズ連載。長引くコロナ禍の影響によって外食需要が激減する中、各地のクラフトブルワリーは地域でどんな役割を担い、クラフトビールを作っているのだろうか?今回は2021年3月13日から5月中に掲載したクラフトビールをまとめてご紹介したい。~その1はコチラ~
神津島の名産・明日葉を使ったクラフトビール「Angie」
日向麦酒は伊豆諸島の神津島に位置する。こちらの代表で醸造長の宮川文子さん神津島で生まれ育ったが、この島の名産といえば焼酎やくさや、明日葉など、他の伊豆諸島にも共通する特産しかないという。「神津島ならではの、オリジナルな特産品が欲しい」そんな想いを持っていた宮川さんが始めたのが、地元の特産品を取り入れたクラフトビールだった。
例えば「Angie」(アンジー)は、伊豆諸島で自生している明日葉を使っている。また醸造所のとなりにダイニングバーもオープン。オシャレなカフェ風の雰囲気に、島の女性からは好評を博している。
日向麦酒のビールは、とてもやわらかく穏やかな味がする。昨今はホップが強烈なIPAや、フルーツ感あふれるホワイトエール、サワーみたいな酸っぱいエールなどが話題になるが、日向麦酒のビールはそちらとは方向が異なる。とがった部分がなく、ゆるゆると飲むのにちょうどいい。
漁師町で生まれたクラフトビールは女性に人気!? 神津島の日向麦酒 https://www.bepal.net/natural_life/144278
上富良野産100%のビールをめざして
上富良野は、昔から商用ホップが栽培されてきた数少ない土地。創業メンバーのひとりの堤野貴之さんはカナダでビール醸造を学び、北海道江別市にカナディアンブルワリー(現在ノースアイランドビール)を設立。2014年に初めて上富良野産のホップを試したとき、その品質の高さに驚いたという。目指したのは、上富良野産ホップ100%のビールだ。
すでに、忽布古丹醸造は地元の上富良野産ホップ100%を3種ある定番ビールで実現している。しかし理想はホップだけでなく、麦芽も地元産100%のビール。しかしこちらの道は果てしなく遠い。大麦を麦芽にする工場が上富良野にはもちろん、日本に数か所しか存在しないのだ。
「ホップ、麦芽、原材料すべて地元のものでつくられたビールは大手でも成しえていないこと。5年先になるか、10年先になるかわかりませんが、無謀と言われるかもしれませんが、そこをゴールにしています」(ヘッドブルワー・鈴木栄さん)
北海道の大きなロマン。100%日本産ビールをめざす忽布古丹醸造
https://www.bepal.net/news/137750
熊本で大量に破棄されるゴボウを使った「ゴボウビール」
熊本県にあるクラフトブルワリー、ダイヤモンドブルーイング。代表の鍛島勇作さんは20代に30か国以上を旅しながら過ごした。旅を通じてどんな国のレストランやバーに行っても必ずビールはあること。そして、それぞれの土地に根づいたビールカルチャーがあることに、鍛島さんは気づく。
その後、知人を通じて商社の仕事でインドやスリランカに赴任。すると今度はメイドインジャパンの存在感に、逆カルチャーショックを受ける。熊本で生まれ育った鍛島さんは帰国後、視線が足元に向いた。「あの世界各地にあるクラフトビールカルチャーを熊本に根づかせたい。そしていつか自分で作ったメイドインジャパンのクラフトビールで、世界でビジネスをしたい」鍛島さんはそんな想いを抱いたという。
自らビールを造りブルワリーを始めたのは2017年の春。熊本の素晴らしい農業をビールを通して世界へ発信したい。その想いでまず作り始めたのは、規格外で大量に破棄されているゴボウを使った「ゴボウビール」だった。熊本のゴボウは1メートル以上あるが、スーパー売り場には長すぎるので、先の方を切って処分していたのだ。そのほかにも熊本の特産品や有機野菜、面白い農法で作られた商品を使ってビールをつくっている。
熊本を日本のクラフトビール文化の発信地にしたい!ダイヤモンドブルーイング
https://www.bepal.net/news/149576
パン屋の名店「タルマーリー」が手掛ける野生酵母クラフトビール
鳥取県八頭郡智頭町のタルマーリー。マルクスの『資本論』を読み解いた『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(2013年)を著した、渡邉格さんのブルワリーだ。もともとタルマーリーは名の知れたパン屋で、渡邉さんは天然酵母を使ったパンづくりを追求していた。それがなぜクラフトビールを造りはじめたのか?
タルマーリーのパンはさまざまな天然酵母を使う。ある日「麦からつくる酵母のほうが、もっとパンと合うんじゃないか?」そんな直感によりビール酵母で作ってみたら、いいバケットが焼けたという。そうしてしばらくは鍋でビール酵母を仕込んでいたが、そのうちビールを20リットル仕込むのも、200リットル仕込むのも手間は変わらないことに気づいた。
こうして、タルマーリーはクラフトビールづくりに着手。パンと同様、渡邉さんはビールも野生酵母(天然酵母)からつくった。2か月ぐらいかけて発酵させ、それから半年から2年ほどエイジング(熟成)する。熟成期間はこちらの商品「レベルシードエール」は2年熟成。「エイジドセゾン」は1~2年。「セッションエール」が半年~1年を要する。
パンからクラフトビールまで!野生酵母でタルマーリーは「腐る経済」実践中
https://www.bepal.net/natural_life/152803
気仙沼の街づくりの一環でスタート。地元のサポーター支えられる
宮城県気仙沼市にあるBLACK TIDE BREWING(以下BTB)。気仙沼の町づくりの一環で計画されたブルワリーだ。BTBは代表が4人いる合同会社で、メンバーは内湾の商業施設を運営するまちづくり会社「気仙沼地域開発」の社長。東京や東北で数々の飲食店を運営する会社の社長。ビール雑誌「TRANSPORTER」を発行し、日本と海外のクラフトビールシーンに精通している社長。そしてBTB醸造長のジェームズ・ワトニーさんだ。
2018年の夏。港湾の商業施設内にどんな飲食店を開いたらいいか。東京に飲食店を複数経営している社長に相談したところ、既存の気仙沼の飲食店とバッティングしない業態としてクラフトブルワリーが候補に挙がった。
地元から資金を集め、醸造免許が下りたのは2020年3月。それに新型コロナウィルス感染拡大が重なった。しばらく様子を見ていたが、4月半ばにBTBは醸造を開始。相変わらずコロナ禍がつづくが、1年経ってもBTBの醸造は順調。出資者やサポーター、その知り合いらが常連となって支えている。
「気仙沼にブルワリーを」地元民と共に立ち上がったBTBが恩返しする日
https://www.bepal.net/natural_life/155609
ビアジャーナリストが自ら手掛ける京都与謝野町のホップの味
京都与謝野酒造はまだブルワリーはないが、ホップ畑はある。代表をつとめるのはビアジャーナリストでありイラストレーターでもある藤原ヒロユキさんだ。与謝野町は藤原さんの妻の実家のある町。盆暮れに帰省しているうちにたまたま手に入ったホップの苗を趣味的に植えたところ、2年目に毬花(房)が実った。
毬花をつけたホップを見た地元農家の人から、「これは何ですか?」とたずねられた。関西でホップ畑を見かけることはなく、農家の人は興味津々だったのだ。こうして気が付いたら「ホップを与謝野町ブランドのひとつにしたい」という話に発展していた。与謝野町にビールの醸造所があるわけではないが、収穫したホップは、ビール造りに定評のあるブルワリーを選りすぐって卸した。
与謝野ではホップをすべて手摘み。蔓は切らずに実だけを摘んでいく。収穫の最盛期に、手慣れた人が1時間詰み続けても、収量は3キロが限度。その日のうちに真空パックして、マイナス15度Cの冷凍庫に入れる。真空状態の凍結ホップにするのだ。
ビアジャーナリストが妻の実家へ移住!京都与謝野町のホップ畑でつかまえて
https://www.bepal.net/natural_life/158360