秋の満月は昇り加減もちょうどいい
9月21日は中秋の満月です。旧暦8月15日の月です。月の満ち欠けに基づいた旧暦では7月から9月が秋なので、その真ん中の8月15日が「中秋」、その夜の月が「中秋の名月」というわけです。
今とは季節感も気候も違いますが、秋が収穫の季節である点は変わっていません。豊作祈願、あるいは収穫祝いと結びついて、古来、中秋の名月は人々に愛でられてきました。お団子や餅をお供えしたり、ススキを飾ったり、お月見の風習は現代にも残っていますよね。
秋の満月がこれほど愛されつづけている理由のひとつに、私は月の高さがあると思います。秋の月はちょうどいい高さに昇るのです。
月が地球を挟んで太陽の正反対にあるときが満月です。一方、月の見かけ上の通り道は、黄道(太陽の見かけ上の通り道)とほぼ同じです。
太陽が一番高く空に昇るのは夏至の頃です。その頃の月は、太陽とは逆に、空の低いところを通っていきます。反対に冬至の頃、太陽は空の低いところを通り、月は天頂近くを通っていきます。夏至の頃の満月はせいぜい30度くらいまでしか昇らず、あまり月の色が冴えません。冬至の頃の満月は80度くらいまで上がり、見上げていると首が痛くなるでしょう。
秋分(と春分)の頃は太陽の通り道はその中間くらい、ほどほどの高さになり、月の通り道もほどほどとなります。見上げていても首が痛くなりません。中秋の名月は、お月見するのにちょうどいい高さというわけです。
中秋の名月なのに満月じゃない?
中秋の名月イコール満月と思っている方が多いかもしれませんが、実は中秋の名月が満月でない年の方が多いのです。昨年は10月1日が中秋の名月でしたが、満月は2日、2019年は9月13日が中秋の名月で、満月は14日でした。前回中秋の名月が満月だったのは、なんと2013年までさかのぼります。
なぜ、ずれるのでしょう?それは月齢と暦の関係によります。もっとも丸い状態の満月は、平均すると月齢14.8くらいの月です(月の軌道などの関係で満月の瞬間の月齢は前後します)。一方、旧暦では新月の瞬間を含む日が1日と決まっているので、月齢14を含む日が15日です。そのため旧暦8月15日は月齢14を迎えても、さらに満ちるころには午前0時を越えて日付が変わっている……ということが起こりやすいのです。
一方、今年の9月21日は午前9時ごろに月齢14となりますが、月はいつもより早く満ちて同じころに満月の瞬間を迎えるため、今年見上げる中秋の名月は正真正銘の満月です。
満月は十五夜ともいいますし、「満月の月齢は15」と思われがちですが、実際にはもう少し早くなりがちなこと、そしていつも微妙に変化していることに注目してみると、さらに月の満ち欠けの妙が楽しめるかもしれません。
今年のウサギは起きてる?寝ている?
月についてよく聞く話に「月はいつも同じ面を地球に向けている」というのがあります。たしかにだいたい同じ面ではありますが、月の軌道が微妙に動いているため、月面のウサギの傾き方も毎回微妙に違います。
望遠鏡で満月の端っこにあるクレーターを定点観測していると、満月のたびにクレーターの位置が微妙に違うことが確認できます。
また、同じ晩の中でも、東から昇るときと南で高く輝くときとでは月の傾きが大きく変わるので、ウサギの姿勢が変化しているのが肉眼でもわかりやすいはずです。立っているウサギ、ほとんど横倒れのウサギなど、姿勢の違いに注目してみると面白いです。
ところで、なぜ月面の模様がウサギなのでしょうか。
諸説ありますが、比較的知られているのがインドのウサギ説です。仏教の説話に「サルとキツネとウサギと老人」の話があります。日本にも伝わっており、今昔物語集に「三獣行菩薩道兎焼身語」として収録されています。題名から予想されるように、ウサギは飢えた老人を救おうとして自ら火に飛び込み、死んでしまいます。この老人、実は神様で、ウサギの慈悲深い行ないを広く伝えるために月に上げて住まわせたという話です。
ちなみに月面の模様をウサギに見立てているのはアジアだけのようです。地域によってライオンや女性の横顔などさまざまです。スーパームーンが話題になりますが、満月は大きさのほか、昇る高さ、ウサギの角度など見どころいろいろ。今年も中秋の名月をお楽しみください。
構成/佐藤恵菜