2021年1月よりBE-PAL.NETでスタートした、ローカルに根づいたクラフトビールを紹介しているシリーズ連載。長引くコロナ禍の影響によって外食需要が激減する中、各地のクラフトブルワリーは地域でどんな役割を担い、クラフトビールを作っているのだろうか?今回は2021年6月21日から8月に掲載したクラフトブルワリーをまとめてご紹介したい。その1はコチラ その2はコチラ
オンラインショップは即日完売!奥多摩のクラフトブルワリー
東京都の最西北の町、奥多摩にあるVERTERE(バテレ)。運営する辻野木景さんと鈴木光さんは高校時代の友人だ。2015年7月にビアカフェがオープンしたが、「当初、ブルワリーが軌道に乗るまで3年は覚悟していた」という鈴木さん。しかしVERTEREの評判は予想以上に速く広まる。
主なお客は登山客、サイクリングやキャンプ、ハイキングを楽しみにきた人たち。その人たちによる口コミで、評判が広がったのだ。コロナ禍にもかかわらず販売量は増え続け、毎週3種のビールをリリースすると、オンラインショップではほぼ即日完売となる。
これまで醸造してきたビールは200種以上。麦芽、ホップ、酵母の主原料には何十、何百という種類がある。それらの組み合わせにより、また、発酵の温度を変えたり、時間を変えたりすることで、ビールの味は微妙に変わる。世界的なクラフトブームによって、ホップや酵母にも新種が増え続けているそうだ。無限に広がるビールの世界にVERTEREは挑戦し続けている。
登山客らの口コミで人気上々!奥多摩の人気クラフトブルワリー、VERTEREのゴールはどこだ?
https://www.bepal.net/natural_life/162839
知られざる柑橘類「柚香(ゆこう)」を使用、徳島県上勝町のRISE & WIN Brewing Co.
RISE & WIN Brewing Co.(以下RISE & WIN)ががある徳島県上勝町は、日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言をした町として知られる。ごみのリサイクル率は80%を越え、町の人は、町内で1箇所しかないゴミ・ステーションで、ごみを45分類に分別する。
RISE & WINの前身は、食品や調味料、石けん、シャンプーなど量り売りをするスーパー、上勝百貨店。個包装の過剰包装をやめ、ごみを減らす試みを行っていたが、ビジネスとして限界があった。「外から人を呼べるものが必要」ということで、2015年に以下RISE & WINがオープンしたのだ。
開業当初からブリューバーを併設し、テイクアウト用のビールの量り売りを行う。トータルではボトルで購入していくお客さんのほうが多いが、グラウラーを手に毎週のように買いに来る常連さんもついている。定番のビール「LEUVEN WHITE(カミカツルーヴェンホワイト)」では上勝町特産の柑橘類「柚香(ゆこう)」を使用。果実の状態ではほぼ流通せず、そのほとんどがポン酢などの原料や地元で消費される、知られざる柑橘類だ。
このほか、乳酸菌で発酵させて作る「上勝晩茶」を使ったIPA、ローストした栗の殻を麦汁に投入し、ほんのりスモーキーな香りづけをしたアンバーエール。どのビールもドリンカブルで、この土地ならではのビールづくりを楽しんでいる雰囲気を感じる。
徳島県のゼロ・ウェイストの町で始まった、クラフトブルワリーRISE &WIN Brewing Co.
https://www.bepal.net/natural_life/166587
福島の忘れられた公営キャンプ場でオープン、ホップジャパンのブルワリー
福島県田村市のホップジャパンは、キャンプ場をメインとした一大アウトドア施設「グリーンパーク都路」の中に位置する。町は福島第一原子力発電所の事故後、避難指示区域に指定。3年後に解除されたが町に戻る人は少なく、施設に遊びに来る人はいなかった。
ホップジャパンはその名のとおり、ホップの生産を事業の柱にした会社。代表の本間さんは元東北電力の社員。クラフトビールの魅力に取り憑かれ、2015年に起業した。
「ふつうクラフトビールをやろうとなると、第3次産業(ビアバーの経営)から入る人が多い。その次に第2次産業(ビール製造)に進む。第1次のところは、だれも手をつけていない」
ところが、どうせやるならホップだけじゃなくクラフトブルワリーもつくってくれ。ビールも売ってくれ。それが市や復興庁からの希望だった。そして斡旋してくれた場所が、田村市のグリーンパーク都路だった。気が付くとブルワリー(第2次産業)と、ビールの販売(第3次産業)、事業は6次化することになった。
ホップジャパンでつくられるのは、田村産生ホップ100%使用の「Abukuma GREEN」。収穫したホップを即日、冷凍して保存し、ほぼ通年製造されている。夏の収穫直後には、冷凍しない生ホップを使ったビール「Abukuma Fresh 」も人気だ。
ホップとクラフトビールで福島の都路に人を呼び戻せ! ホップジャパンの挑戦
https://www.bepal.net/natural_life/170432
羽後町の豊かな農畜産物が原料に、小規模な醸造設備でつくるビール
羽後麦酒(うごばくしゅ)があるのは、秋田県南部の豪雪地帯、羽後町。現在は人口1万5000人ほどの小さな町だ。かつての羽後国(うごのくに)にうまいものが集まっていたが、その中にないものがあった。平成元年(1989年)を最後に、酒蔵がなくなったのだ。「この町に酒の文化を取り戻したい」この町で生まれ育った鈴木隆弘さんは、羽後麦酒設立の理由をこう語る。そして町に古くからあった、今は使われていない味噌蔵を借りて、ブルワリーに改修した。
こちらのブルワリーでは、よく見かける大きな銀色のピカピカ光るタンクがない。あるのは大きな寸胴と、白い業務用のチェストフリーザー。クラフトブルワリー界で「石見式(いわみしき)」と呼ばれる小規模な醸造設備だ。小規模なので少量生産に長けており、2017年に稼動してから造ったビールの種類は40種以上にのぼる。豊富な地元の特産品を使っており、今年はふきのとうを使った「春来(ばっけ)」いうエールを造った。
羽後麦酒のビールは、おだやかな風味が特徴だ。素材のおもしろさがありながら、その個性が目立ち過ぎない。食事に合わせやすいのも特徴だ。
羽後の山男、酒蔵が途切れた町でクラフトビールを造り始める
https://www.bepal.net/natural_life/172539
観光地とは何だろう? 生まれ育ったみなかみ町でたどり着いた答え
群馬県のみなかみ町、昔まんじゅう店だった場所に建つオクトワンブルーイング。代表の竹内康晴さんはみなかみ町の出身で、大学進学で地元を離れてから30年近くを経て、みなかみ町にブルワリーを開いた。
バブル期までの水上町(現みなかみ町)は人気の温泉地として経済的にも潤っていた。しかしバブル崩壊後は竹内さんが帰郷するたびにホテルや商店が廃業し、人がまばらになっていくのを目の当たりに。観光地って何だろう? ずっと考えていたその答えは「地元の人と話をしたり、地元の人が楽しんでいることをしたり、味わったりすること」と竹内さんは語る。するとヨーロッパを旅したとき、どの町にもあるパブがコミュニティの拠点になっていることを思い出した。ビールが人をつないでいる。そういうものがみなかみ町にあったら、そう考えたのだ。
そしてもうひとつ、竹内さんにはやりたかったのは自然の保護活動だった。人々をつなぐビールと自然保護への思いがつながり、Uターンとクラフトビールブルワリー経営という像を結んだのだ。
「おいしい水があるから、おいしいビールができる。おいしいビールを造ることと奥利根の自然を守ることはつながる。ぼくはそれを何より地元の人に伝えたくて、クラフトビールを造ることにしました」
クラフトビールを飲めば奥利根の自然が見えてくる、オクトワンブルーイング
https://www.bepal.net/natural_life/175574