偉大なる女性登山家=ルーシー・ウォーカーに想いをはせて
1865年7月14日イギリス人のエドワード・ウィンパーがマッターホルンを初登頂。次いで6年後の1871年7月22日には、同じくイギリス人の女性登山家ルーシー・ウォーカー(当時35歳)が女性として初めてマッターホルンに登頂した。
19世紀は女性がズボンを履くことがあり得ない時代だった。当時ルーシーはスカートの下にズボンを履いて登攀に挑戦。しかし登り始めるとスカートを脱ぎ捨てたというストーリが言い伝えられている。勇敢なルーシーの登頂は、女性登山家の大きな偉業として歴史に名が刻まれている。
今年は女性のルーシーがマッターホルンを初登頂してから150周年。スイスでは記念となる2021年の3月8日「国際女性デー」から10月8日まで、女性を対象としたプロジェクトが実施されている。その一つが【100% Women Peak Challenge】。女性のみでスイスにある48座4000m峰の登頂の挑戦だ。
筆者は48座のひとつ、【ブライトホルン】を女性だけのメディアチームでチャレンジする登頂ツアーに参加。国際山岳ガイドもフォトグラファーもメンバーも全員が女性なので、登頂した場所は異なるが偉大なる女性登山家のルーシーを想い想像しながらブライトホルンに挑んだ。
今回はブライトホルンのエリアと山小屋の紹介をしたいと思う。登頂のストーリーや心構え、準備については下記の記事を参考に。
スイス側とイタリア側のブライトホルン
スイスには48座の4000m峰があり、ツェルマット周辺にはなんと29座が連なっている。今回登頂を目指した4164mのブライトホルンは【4000m峰の雪山登山の登竜門】としてヨーロッパで有名だ。スイス側から登るとガンデック小屋から片道約6~8時間。氷河の急登と岩場が続く。
ノーマルルートは、標高3883mのクライン・マッターホルンにあるマッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅までゴンドラで行き、氷河を歩く片道約2時間のコースだ。4000m峰にもかかわらず、このルートを使えば日帰りでの登頂が可能なのだ。岩場がなく氷河を歩くだけで登頂ができ、ヨーロッパで最も簡単な山として知られ、挑戦する登山者が多い。
しかし天候が変わりやすくクレバスの危険があるため、危機管理やレスキューができる国際山岳ガイドと行くことを強くおすすめする。
モンブランの絶景と広がる4000mの世界
クライン・マッターホルンにあるマッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅から見た景色は素晴らしい!左手の扇形の山がモンブランとグランド・ジョラス。右手の高いはグラン・コンバン。ヨーロッパの3大北壁はマッターホルンとアイガー、グランドジョラスだ。ここではそのうちの2つをみることができるのだ。
今回は日帰りではなく、スイスとイタリアにある国境テスタ・グリジアの山小屋に宿泊してから山頂を目指した。冬のスキーシーズンには、スイスから日帰りで簡単にこの国境を越えてイタリアの美味しい食事やデザートを味わうこともできる。
ヨーロッパ最高峰のサマースキーエリア
山小屋へ行く途中には、夏でもスキーが可能な総滑走約21kmのコースがあり、365日楽しむことができる。ヨーロッパでもっとも標高が高いスキー場だ。スキーヤーやTバーに乗っている人を横切って歩いていく。
氷河は下方向に動き流れるので特殊なリフトの支柱でしか立てることができない。ゆえにヨーロッパの氷河エリアにはTバーが多いのだ。真夏でも滑走できるテオドール氷河エリアは、世界各国からナショナルスキーチームのトップスキーヤーが訪れトレーニングを行なっている。
スイスから一気にイタリアの世界へ!
1984 年に建てられた木造のテスタ・グリジアの山小屋は5~7人部屋、40床のドミトリーとレストラン、セルフサービスのバーがある。筆者は冬のスキーの際にランチによく来るのだが、レストランは安くてとても美味しいことを知っていたので、夕食が楽しみであった!
糖分補給のため生クリームたっぷりのチョコラータ!濃厚でドロドロのチョコレートが体にしみる!筆者はイタリアに行くと必ずチョコラータとエスプレッソを注文する。スタッフもほかの宿泊客もイタリア人が多く、陽気で明るく声をかけてくれ気分が上がる。フレンドリーな国民性なので、すぐに仲良くなれるのが楽しい!
スイスとイタリアの国境を散歩
夕食まで時間があり、じっとしているとだるくなってしまうのでお散歩へ。外の空気を吸ってリフレッシュ。山小屋の隣にはイタリアのチェルビニアから登ってくるゴンドラと展望台がある。そこには国境の印があり、記念撮影のスポット。スイス側でもイタリア語で表記されている。
ツェルマットから見たマッターホルンは綺麗な三角錐だが、イタリア側から見ると形が違う!
標高3480mにある山小屋での過ごし方
プロガイドのトレーニングを目撃!
山小屋に戻ると女性の国際山岳ガイドの3人は筋トレ中であった!懸垂と腕立て伏せ、ヨガをしていた。ガイドはロープをしっかり握ってゲストを確保するため、筋肉が衰えないようにトレーニングは欠かせないそうだ。少しの時間でも自分と向き合い心身ともに鍛錬している女性ガイドに尊敬の念が沸いた。
登頂のミーティングと自己紹介タイム
メインガイドのカロが翌日の案内と準備、注意事項や心構え、天候について説明。ドレッドヘアが良く似合っている。マムート・プロ・アスリートでもあり、若手のホープだ。
ヨーロピアンが大好きな”アペロ”タイム
ヨーロッパには夕食の前に軽くお酒を飲んでおつまみを楽しむ【アペロ】という文化がある。メディアツアーとガイドのカロとナディンをサポートしているマムートから乾燥肉とチーズ、パン、プロセッコのアペロのプレゼントが!プロセッコとはイタリアを代表するスパークリングワイン。ヨーロッパではシャンパンよりお手頃価格なので人気だ。
イタリアの山小屋の夕食
野菜スープは写真では分からないほど深皿で大きい。すでにアペロでお腹が膨れている。次のお皿も食べられるか不安になった。イタリアではまず前菜、スープ、パスタ、お肉、サラダ、デザートとお皿が続く文化があるのだ。
予想通りパスタの量がものすごい。高所での宿泊。すべて食べたら消化不良になりそうなので、申し訳ないが少々控えさせてていただいた。本当はお肉とデザートが出てくるはずだったが全員が遠慮し、イタリアの食事の量に皆が驚かされた。
たまたま筆者はガイドの3人とフォトグラファーと同じ部屋に。食後の会話が楽しみであったが、21時前に歯磨きをしてすぐ就寝。女性ガイドたちの正しい生活リズムを感じた。
無事にブライトホルンに登頂したあと、氷河をひたすら下る。強風もあり景色を見る余裕は少なかったが、改めて写真を見るとモンブランも見えており、ロケーションの壮大さを感じた。
“ツェルマット山岳博物館”へ寄り道
ツェルマットに戻り休憩後は山岳博物館へ出かけてみた。ここには、冒頭で紹介したマッターホルンを初登頂したエドワード・ウィンパーが使用したザイルも展示されている。登山の歴史や昔のツェルマットの生活様式、地質などの詳細を学ぶことができ興味深い。
ルートにライトが光り分かりやすい。ノーマルルートのヘルンリ稜は東壁と北壁の間の稜線だ。
登頂後は快適なホテルでリラックス
登山後は快適なホテル・ダービーでシャワーを浴びて、ふかふかのベッドで眠る幸せを堪能した。4000mの世界は壮大で普段の生活では味わえない絶景や自然の大きさを感じられた。自分と向き合い、仲間とのコミュニケーション、装備、歴史、学びが多い登山となった。旅のことを振り返りながらゆっくりと過ごせる良き時間となった。
はじめて4000m峰に挑戦するならツェルマットのブライトホルンへ!
いつか日本から世界に出て初めて体験する4000mの雪山には、ブライトホルン登山をおすすめする。国際山岳ガイドとともに壮大なロケーションを五感を使って体感し登っていただきたい。一歩踏み出してチャレンジすることは怖さもあるが学びも多い。今回の登頂体験でよりポジティブな自分に出会い、感動したことすべてが宝となり、人生がさらに豊かになっていくと信じている。
関連情報
テスタ・グリジアの山小屋
http://www.rifugioguidedelcervino.com/
ツェルマット山岳博物館
https://www.zermatt.ch/Media/Attraktionen/Matterhorn-Museum-Zermatlantis
ホテル・ダービー
https://www.derbyzermatt.ch/
取材協力
スイス政府観光局
https://www.myswiss.jp