20年にわたる北極探検などにより、2018年に「植村直己冒険賞」に輝いた稀代の冒険家が本屋に転身!? 噂の書店を訪ねました。
冒険研究所書店
住所:神奈川県大和市福田5521-7 桜ヶ丘小澤ビル2階
電話:046(269)2370
営業時間:10:00〜19:00
定休日:月曜
https://www.bokenbooks.com
唯一無二の極地遠征のスペシャリストは、昨年、「梅棹忠夫 山と探検文学賞」に輝いた著書『考える脚』(KADOKAWA)で意外な言葉を残している。
──ひとりで極地を歩く日々というのは準備期間であり、自分にとっての表現活動はこれからはじまるのだ──
北極冒険家・荻田泰永さんが選んだ新たな冒険の舞台、それこそが、神奈川県大和市にこの春オープンさせた「冒険研究所書店」だ。きっかけをたずねると、自身が狂おしいほど探検に魅せられる、その根源について考えはじめたことにあるという。
「個人的な志向を超えて、古代から連綿と受け継がれた探検・冒険の歴史があり、その末端にぼくがいる。つまり人類の普遍の営みであり、視野を広げて考える必要があると思ったんです」
そうしてここ数年、思想、哲学、宗教、美術──分野を問わず、古今の名著を読みあさった。
「読みたい書籍がまだまだある。ならばいっそ……というのが、書店を開いた理由です」
もうひとつの理由は、冒頭の言葉につながっている。
「冒険や探検を書く人は昔からいるじゃないですか。ぼくも書くけど、どこか天の邪鬼というかね。みんなが書くのなら、俺は売るぜ、みたいな(笑)」
体験を通した着想を描くことも表現であれば、現場で得た世界観や思索に迫る名著を並べることもまた、表現である。
「書架に並ぶのはぼくの興味を抽出した一冊であり、この場は自分の脳内みたいなものです」
選書の基準をたずねると、がたいのよい店主はにやりと笑い、ショウペンハウエルの『読書について』を手に取った。
「彼は読書とは他人の頭で考えることだというんです。つまり、多読に勤しむほど、思考力は衰えていく……本にある答えは著者のものであり、それを材料に各自が自分で考えることこそが読書だ、と解釈しています」
この書店に並ぶのは、冒険家の長年にわたる肉体的経験に基づいた、知的好奇心の種なのだ。
探検の最先端という背景がもたらす独自性を有した書店はいつしか強い磁場となって、魅力的なクレイジーが惹き寄せられる──冒険書店研究所には、そうした楽しい予感が漂っている。
書店内には、冒険家が選んだ新旧3000冊ほどの書籍と極地で実際に使った道具が展示されている。「元々、人が有機的に集まる場を作りたいう思いもあり、イベントなども行なっています」
店長オススメ
少年少女に贈る!名作
『無人島に生きる十六人 』
須川邦彦著 新潮文庫
「明治時代に起きた無人島からの脱出劇。手法も具体的で楽しめます!」
店長オススメ
ミドルエイジへの応援歌
『藤十郎の恋・恩讐の彼方に 』
菊池 寛著 新潮文庫
「人はなぜ冒険するのか。永遠の解に通ずる一冊だと思います」
※構成/麻生弘毅 撮影/高橋郁子
(BE-PAL 2021年9月号より)