皆さんは登山に行く際、登山計画書は作成していますか。
「登山届は提出したことがない」「作成が手間だ」「低山だから大丈夫」「トレランだから要らない」などを理由に、登山計画書の作成していない人が多くいます。
「登山計画書」とは、日時やメンバーや登山のルート、持っていく装備など、自分たちの登山計画のすべてをまとめたもので、それを警察など第三者に知らせるため提出するものを「登山届」と言い、「入山届」「登山者カード」などとも呼ばれています。2014年頃から長野県の北アルプスや山梨県内の富士山、八ヶ岳、南アルプスの一部の山域で登山計画書の提出が義務化されるなど、遭難防止対策の一つとして重要なアイテムとして位置付けられています。
毎年のように発生する山岳遭難。計画書を作成するだけで、いざというときには救助の助けとなり、自身や仲間の命を救うことになるかもしれない登山計画書の基本と現在の登山計画事情をチェックしてみましょう。
登山だけでなくトレイルランや低山ハイキングでも山に入るなら必要
警視庁の発表によると2020年の遭難者は2,697名、うち死者・行方不明者278人でした。これを態様(原因)別にみると、道迷いが44%と最も多く、次いで滑落15.7 %、転倒13.8 %でした。また、ひとりで山に入って遭難された方1,086人のうち、死者・行方不明者は172人で15.8%を占めており、2人以上のグループで山に入った場合の遭難者の死者・行方不明者の割合(6.6%)と比較して9.2ポイントも高くなっているのです。山岳遭難と聞くと高く険しい山を想像する方もいるかも知れませんが、都心から近い低山で年間約260万人が登ると言われている高尾山系(東京都八王子市)さえも遭難は多発しており、年に100件以上の救助要請があるそうです。
登山計画書はなぜ必要なの
計画書が提出されていなくて、家族や知人に行き先も告げられていなかった場合、ひとりで山に入ってしまうと、どこを歩いていくつもりだったのかさえ全くわからないことになり捜索範囲が絞れません。またトレイルランの場合は、行動範囲が無限に拡がり捜索は更に困難を極めることになります。
登山計画書の作成で一番大切なポイントは、事前に行動をシミュレーションし、リスクの洗い出しをすることです。二番目に大切なのは、周囲の人に行き先を伝えることです。まずは次の4つのポイントを押さえ、練習のつもりでメモなどに書き出していきましょう。
1.登山口から下山口までのルートを調べる
行きたい山を決めたら、市販されている「山と高原地図」などの登山地図を使ってコースを調べます。ポイントは、そのコースに必要な歩行時間や難所や滑落リスクのある危険箇所が無いかなどです。自分たちの対応できる技術や経験値や体力、一緒に行動する仲間がいる場合はその方の能力などと照らし合わせて無理のないものか確認しましょう。
2.行動時間を調べる
コースが決まったら、出発する日時を決めましょう。
出発する時間は、時期や山域によって異なります。例えば、夏の高山では午後から天気の急変のリスクがあるので14時頃に目的地に到着するよう計画するのが原則です。冬は日没の時間が早いので、遅くとも16時には下山できる計画が必要になります。また、休憩する場所や時間を加えることを忘れないでください。行動時間を把握したら出発時間や下山時間を調整し、余裕のある行動になっているか確認します。場合によっては、コースを短縮や変更するなどの修正を加えていきます。
3.エスケープルートを検討する
登山中に考えられるリスクでは、体調を崩すことや天気が急変することがあります。そうしたアクシデントに備えて、安全に早く下山できるルートが他にないか事前に把握しておきます。そうしたルートがない場合は、特定のポイントから引き返した場合に掛かる時間を割り出しておくことも有効です。
4.必要な装備を検討する
行きたい山域、ルート、行動日時が決まったら、携行する装備と食料を検討します。ヘッドランプや地図・コンパス、レインウエアなどの基本装備以外に、ファーストエイドキット、ツェルト、非常食などの非常用装備。季節に合わせた防寒着や着替え、ルートによってストックやアイゼンが必要ないか、高山ではヘルメット着用が義務付けられていないかなどの確認が必要です。次に、行動時間に合わせて朝食や昼食などの回数や食料の内容も検討します。ちょっとした休憩や歩行時に食べるもの(行動食)も決めておきます。そうすることで持参する荷物の量が決まっていきますから、用意するザックの大きさに問題がないか、忘れ物がないかなどを事前に把握することが出来ます。
4つのポイントを使って、アプリで登山計画書を作って提出する
実は多くの方が登山届を提出されていないのは事実です。「必要なのは理解している」でも「記入したくても項目の意味が理解できない」「記入する内容が多過ぎる」などが本音だと思います。以前は紙に手書きをして提出する形が主流でしたが、現在では手軽なアプリやWebサイトを使って提出することが出来るようになり人気なのでこちらがおすすめです。
今回紹介するのは電子申請システム「コンパス〜山と自然ネットワーク〜」です。これは全国37の警察・自治体と連携しているのが強みです。登山口で見かける登山ポストなどへ提出された登山計画書の場合、管理者や自治体に情報が集められますが「コンパス」に提出された計画書は警察や自治体がシステムにアクセスできる仕組みなので、もしもの時の情報把握までのスピードが圧倒的に速いのです。また、登録した家族や友人とも登山計画を共有することが可能なのが強みです。
電子申請システム「コンパス〜山と自然ネットワーク〜」https://www.mt-compass.com/
ここまで確認や検討してきた内容を書いたメモを用意しておけば、あとは「コンパス〜山と自然ネットワーク〜」アプリやWEBサイトの指示通りに内容を入力していくだけです。
コンパスの優れているところは、氏名や住所だけでなく山に持っていく装備や山岳保険契約番号、緊急連絡先などの基本情報は保存しておくことが可能です。計画書の作成時には保存された個人情報を呼び出すだけなので時間も効率よく使えます。
無事に下山したことを伝えよう
以前のような紙に手書きをして提出した登山届は、下山報告は警察や自治体にする必要はありません。しかし、アプリやインターネットを使って提出した場合は「下山届」をする必要があるので、忘れずに行ないましょう。「コンパス〜山と自然ネットワーク〜」ではアプリやWebサイトから「下山届」を提出すると、登録していた家族や友人に「下山通知」が自動的にメールされるので安心です。
ウエアなどの身につけている物の特徴を伝える
筆者が過去に遭難者の捜索を行なった経験から言えることは、「登山計画書」が未提出だった場合、どのルートを歩いたのか特定することができず、可能性があるルートを全て確認する必要があることから捜索が長引く要因になります。また捜索する場合の手掛かりのひとつとして、当日の服装の特徴が分かると聞き込みや捜索がしやすくなります。家族や友人に当日のウエアが分かるような写真を送ることや、SNS等に写真をアップしておくのも有効です。なお、登山届にはウェアの色とレインウエアの色などの特徴を記入しておくことをお勧めします。
まとめ
どうでしたか、登山計画書を作成することは、事前にリスクマネジメントを行なうことであるのを理解していただけたでしょうか。その計画に無理がないのか、装備や食糧計画に不足はないか、事前に想像を巡らせながらシミュレーションすることも登山の楽しさでもあります。昔と比べ、手軽に作成することが出来るようになりました。低山から縦走まで、どんな時も登山計画書を作成してみるとよいのではないでしょうか。