インド北部のラダック地方の南東、標高4500メートルの地に広がる巨大な湖、ツォ・モリリ。取材に訪れた時期はずっと上空に雲が広がっていて、晴れた日の透き通るようなブルーの湖水はあまり見ることができませんでしたが、空を鏡のように映すその神秘的な姿は、眺めていて飽きることがありませんでした。
湖畔の村コルゾクの人々の大半は、わずかな畑で大麦などの作物を育てたり、牛や羊、ヤギなどの家畜を飼って生計を立てています。標高が高く厳しい気候だからか、畑でそよぐ麦の穂も、ラダックの他の地域に比べてかなり短く見えます。
コルゾクの村からツォ・モリリの湖畔にかけての一帯には、しっとりと美しい湿原が広がり、夏は多くの高山植物が花を咲かせて、甘い匂いを放っています。標高の高い場所で育まれる湿原はとても脆弱なため、その環境が破壊されないようにWWFなどによって保護されています。
夏の間、湿原ではたくさんの種類の野鳥を見かけます。餌の取り場として、営巣する場所として、ツォ・モリリの湿原は鳥たちになくてはならない存在なのです。
ツォ・モリリの湖畔には、チベット仏教のマントラ(真言)を刻んだマニ石と呼ばれる石が、至るところに置かれています。人気のない岸辺にかつて誰かが置いたこの石たちには、どんな祈りが込められていたのでしょうか。