インド北部のラダック地方の中でも、辺境に位置する村、チリン。この村には、かつてネパールから来た仏師の末裔にあたる鍛冶職人(セルガル)が暮らしています。今回、その鍛冶職人の一人、ツェリン・ジグメットさんの仕事ぶりを密着して取材させてもらいました。
庭の外れにある小さな工房から、カンカンカン、という槌音が周囲に響き渡ります。慣れた手さばきで加工を施していくツェリンさん。何気なく槌をふるっているように見えるのですが、まるで機械加工のような精度で金属が形を成していきます。
「表面に模様を刻む時は、こうやるんだよ」とツェリンさんは言うと、金属板を右足の親指と人差し指でひょいと押さえ、左手の鏨を右手の槌で叩きはじめました。こんなアクロバティックな体勢で苦もなく作業ができてしまうのにびっくりです。
手だけでなく足まで使って作り上げた腕輪。精緻な中に手仕事ならではのぬくもりを感じさせる仕上がりです。