別の日には、ツェリンさんは水差しの製作に取りかかっていました。水差しのふたの下、首にあたる部分の加工です。まずは羊の毛皮で作ったふいごで炭火を熾し、融点の低い金属を溶かしていきます。
炭火で溶かした金属を、水差しの首にあたる輪っか状のパーツの内側に流し込みます。この部分に模様を刻んでも輪っかがへしゃげないようにするためです。
内側の金属が冷えて固まったパーツを、またしても足で毛布越しに押さえながら、鏨と槌で細かな模様を刻んでいきます。ものすごい集中力。加工が終わったら、再び火を熾し、輪っかの内側に充填した融点の低い金属を溶かして取り除きます。
加工を終えた水差しの首回りの部分。まさに匠の技。この後、注ぎ口や取っ手など、さらにパーツとディテールを加えていくそうです。
セルガルと呼ばれる鍛冶職人は、チリンの村に今は8人しか残っていませんが、その一方で、この貴重な技術を受け継ごうと学んでいる若者もいるそうです。遠い昔から伝えられてきた素晴らしい手仕事が、これからも残り続けていくことを願わずにはいられませんでした。
山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』を雷鳥社より刊行。
http://ymtk.jp/ladakh/