“登山界のアカデミー賞”を3度受賞した平出和也さんが語る「未踏のラインへのこだわり」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL11月号掲載の連載第4回目は、世界でもっとも先鋭的なクライミングに対して贈られる「ピオレドール賞」を3度受賞した平出和也さんです。
15年越し4度目となるシスパーレへの挑戦をうながしたのは、かつてのパートナーへの思いだった――平出さんの胸中に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
平出和也/ひらいで・かずや
1979年長野県生まれ。未踏峰・未踏ルートで先鋭的な登山を実践し続けている世界的アルパインクライマー。三浦雄一郎氏のエベレスト登頂や田中陽希氏の『グレートトラバース』を撮影するなど、山岳カメラマンとしても活躍する。石井スポーツ所属。
厳しかった4度目のシスパーレ。初めて幻聴を聞いた!
関野 もし谷口さんが生きていたら、4度目のシスパーレは谷口さんと挑戦していましたか?(注:かつて平出さんのパートナーだった谷口けいさんは、2015年冬に大雪山で遭難死した)
平出 いえ、4度目の挑戦自体していなかったかもしれません。3度目の敗退のとき、僕は一度も振り返ることなく下山しました。「人生には登れない山があってもいい」、「シスパーレに心は残さず、違う山に向かおう」と自分の中で決着がついたからです。でも、谷口さんの死によって、なんとしてもシスパーレの頂に立とうという思いに変わりました。「谷口さんが生きていたら、もう一度シスパーレに挑戦したかったのではないか。だとしたら、彼女の思いとともに登ろう」という気持ちが、僕を再びシスパーレに向かわせたんです。
関野 厳しい登山だったそうですね。
平出 すべての経験を注ぎ込んでもなお、自分の限界を超えていました。実際、初めて幻聴を聞きました。登っているときもテントで寝ているときも、応援の声や太鼓の音が聞こえてきました。生きるか死ぬかの境目ギリギリのところで登頂し、かろうじて生きて帰ってきた――登山家・冒険家にとってこれ以上はない経験でした。だからこそ燃え尽きてしまいました。あんなギリギリの挑戦はもう経験できないだろうと思ったからです。それでも心の中に引っかかりがありました。それは、4度目のシスパーレが僕に何を教えてくれたのか、答えがまだ見つかっていないことでした。その答えを見つけるためには、次の山を登らなければなりません。過去3度のシスパーレの敗退でも、答えがわかったのは次の山に登って、振り返ったときだったんです。4度目のシスパーレの意味を見つけるためにふさわしいのは、ラカポシ南壁でした。未踏の南壁を登り切って山頂に立たないと、北面に聳えるシスパーレの姿が見えないからです。
この続きは、発売中のBE-PAL11月号に掲載! 「地球永住計画」の公開講座にて視聴することができます。
公式YouTubeで対談の一部を配信中! 「地球永住計画」にてノーカット版を公開講演
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。
2021年10月16日開催!地球永住計画 公開オンライン講演「現代の冒険者たち」平出和也×関野吉晴
「地球永住計画」にて対談のノーカット版を視聴できる公開講演が開催されます。視聴には以下からお申し込みが必要です。
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/018pkcm6fex11.html
講演動画は配信終了後から3日間視聴可能です。予定のある方もお好きな時間にゆっくりお楽しみください!