琵琶湖の湖魚(こぎょ)をエスニック風味で味わうカフェ
夏のよく晴れた月曜のランチタイム。ビタミンカラーの鮮やかなプレートが目の前にやって来た。カウンター席がいっきに華やぐ。
「下から反時計回りに、鮒ずしのピンチョス、ビワマスのソテー、ホンモロコのスパイス唐揚げと万願寺唐辛子、沖島のお母さんたちが作った野菜をたっぷり入れたスパニッシュオムレツ、カボチャのマッシュ添えサラダ、そして、沖島漁師の奥さんたちが作ったウロリの佃煮を入れた炊き込みご飯です。あ! ビワマスのアラ汁はサービスです」。
ほんわか笑顔で説明するのは、川瀬明日望(あすみ)さん。滋賀県近江八幡市の地域おこし協力隊として、同じ市内にある離島“沖島”に移住し、活動している。
沖島とは琵琶湖に浮かぶ漁師の島。日本で唯一、淡水湖に浮かぶ有人島だ。淡水湖に浮かぶ有人島は世界中でも珍しい。が、ランチプレートを今まさにいただこうとしているこの場所は、湖上の沖島ではない。
京都の繁華街から少し外れ、京阪出町柳駅から高野川沿いに北へ8分ほど歩いたトコロにあるタイムシェアカフェ『リバーサイドカフェ』だ。毎曜日、毎時間、担当するお店がチェンジする。ある曜日の朝はグラノーラと薬膳茶のお店だったり、ある曜日のランチタイムはスリランカ料理店だったり、はたまたある曜日の夜は長崎県は五島列島の郷土料理である五島うどんのお店だったり。
一見、普通のレトロアパートのエントランスに小さな黒板の看板が立てかけられ、その日その時間帯の店名が記される。明日望さんのお店の名前は『琵琶湖と、タパス。』。
「地域おこし協力隊になる前は、メキシコ料理レストランを運営している会社で働いていて、調理師免許も持っているんです。その経験を活かしつつ琵琶湖の湖魚や沖島のコトを知ってもらいたくて」と。
ここリバーサイドカフェで湖魚を使ったお店をするコトは、地域おこし協力隊になった頃から1年ちょっと、ずっと温めていた企画であり、念願叶って2021年夏から営業をスタートさせた。滋賀県の隣とはいえ、京都の人でも湖魚を食べたコトがある人はさほど多くはない。
「私のInstagramを見て食べに来てくれるお客さんもいますよ。『湖魚は淡水魚だから、臭くて食べられないと思っていたけど、美味しい!』と言ってもらえます」。
そうなのだ。日本だと“海水魚は美味しく、淡水魚は泥臭い”という固定観念が、どうしても独り歩きしている感じがある。けれど、一度、琵琶湖の湖魚を食べてみてほしい。なぜ、こんな美味いものを見逃して生きていたのかと悔しく思うと同時に、新しい味覚の世界がひろがるコト間違いなしだ。
なにを隠そう、滋賀県の山村育ちの私がそのひとりである。幼少の頃から「淡水魚は美味しくない」という周りの大人の話を信じ込み、大人になるまで食べず嫌いだった。それが、数年前、沖島で湖魚であるビワマスの刺身を食べた瞬間、あまりの脂ののりと美味しさに打ち震え、淡水魚に対する考えが180度コロリと変わってしまったのである。
しかも『琵琶湖と、タパス。』では、従来の湖魚の代表的な食べ方である佃煮や煮付けではなく、スパイス等を使い、より一層、美味しく食べやすいレシピで出してくれる。
鮒ずしのピンチョスは、鮒ずしの酸味とオリーブがこんなに合うなんてと一口目から感動する。臭い食べ物の上位に入る鮒ずしだが、近頃は漬け方が工夫され、臭みがあまりなく食べやすいモノも多い。琵琶湖の宝石とも呼ばれるビワマスは脂がのり、口の中でふわっとやさしい味が広がる。ホンモロコは琵琶湖固有種で近年は漁獲量が減り高級魚の部類に入る。それがスパイスと合わさると、これは、もう酒がほしいと叫ばずにはいられない。
ウロリは、これまた琵琶湖固有種であるビワコヨシノボリの稚魚。ほんのり甘さが感じられる炊き込みご飯は、ペロリとたいらげてしまう。一人暮らしだと、佃煮を大量にもらっても、そんなにすぐに食べきれないコトが多い。「私、島の人から佃煮をもらったら、炊き込みご飯にするのが好きなんです」と明日望さん。私も今度から、炊き込みご飯にしようと、心のメモ帳に書き留めた。野菜ももちろん沖島産。いつもよくしてもらっている島の方々が作っているモノだそう。
ちなみに、秋以降は、タパスメインのプレートメニューになっている。ブラックバスのフライのタコス、ウロリのライムマリネタコス、チリコンカンのタコス等、湖魚のタコスを堪能できるのだ。メニューは日によって、時期によってもその都度変わるので、日を変え、時期を変え、何度でもいろんな湖魚に出会いに訪れたくなる。
知り合いができると、沖島旅はさらに楽しくなる
「『琵琶湖と、タパス。』をやっているのは、湖魚を知ってほしいという気持ちと、もうひとつ理由があるんです。それは、ココで私と知り合って、私を訪ねて沖島に来てほしいなって思うんです。沖島って、知り合いができると更に楽しい島だと思うんですよ」。
そういう明日望さんも、地域おこし協力隊になるまで、沖島を訪れたコトはなかった。近江八幡市の2つ隣である滋賀県日野町出身ではあるけれど。
「沖島での暮らしは、想像以上に満足だらけ! 島の方々が、ほんまに良くしてくれるんです」と、明日望さんのほんわか笑顔がさらに増す。そういうその日も『琵琶湖と、タパス。』の営業を終えた帰り道、定期船ではなく、お隣に住む漁師夫妻の漁船に乗せてもらって帰って行った。漁師さんが島の対岸の畑で収穫したてのプリプリのトマトをかじりながら。そして、ちゃっかり、私も便乗させてもらった(笑)。
晴天の下、潮風ならぬ湖上の風に吹かれながら、塩をつけて食べるトマトは甘くてみずみずしくて、たまらない。まさに、知り合いができると楽しさ嬉しさが何倍にもふくらむ。沖島生活に、ちょこっと触れるコトができる至福の時間。そして、仲良くなった島の人に会いたくて、また沖島を訪れたくなってしまう。
『琵琶湖と、タパス。』で、島人である明日望さんと、ぜひ、知り合ってほしい。そして、明日望さんを訪ねて琵琶湖に浮かぶ沖島へ!
●川瀬明日望さんのInstagram
琵琶湖とタパス【沖島移住日誌】
@okishima.tex.mex
※カフェ『琵琶湖と、タパス。』は『リバーサイドカフェ』(下記のお店)にて、毎週月曜日12:00〜17:00(L.O. 16:00)営業中
●リバーサイドカフェ
京都府京都市左京区高野蓼原町25 リバーサイドハイツ1F奥
●フリー冊子『沖島さんぽ』
滋賀県は琵琶湖に浮かぶ有人離島・沖島のガイド兼コミックエッセイ。
沖島が気になる方は、ぜひ、下記に連絡してお取り寄せしてみてください。
(冊子は無料ですが、郵送料は注文者さん側のご負担になります。)
沖島町離島振興推進協議会
montekite.com/inquiries/
もしくは
沖島町離島振興推進協議会のInstagram 「もんて @montekite2017」 へメッセージで連絡