——取材では、どんな地域を回られたのですか?
竹沢:中国では青海省と四川省にまたがる、チベットのアムド地方とカム地方。インドではラダック、ザンスカール、スピティ、ダラムサラ。あとはブータンと、ネパールの旧ムスタン王国。日本と行ったり来たりの旅でしたけど。インドのアルナーチャル・プラデーシュ州や、中国雲南省に住んでいるキリスト教徒のチベット人エリア、モンゴルやロシアのチベット文化圏にも行きたかったんですが、時間などの都合で行けませんでした。目的地を選ぶ際、基本的には、ある意味で大量消費社会から隔離されている僻地に行きたい、という意識はありました。
——それぞれの地域ごとに異なる特徴がありそうですね。
竹沢:そうですね。たとえば、ブータンは他のチベット文化圏とはちょっと雰囲気が違いました。森林があるからだと思います。自然環境は人間の考え方や表情を変えますね。インドの中でも、ラダック、スピティ、ダラムサラとでは、それぞれ全然違います。ダラムサラには、チベット亡命政府があってダライ・ラマ法王がいらっしゃるというのが、非常に大きい。チベット本土にはない自然環境の場所に、亡命政府がある。インドが守っているから、そこに争いはない。対照的に中国側のアムドやカムでは、政治的なものが入り込んでいて、雰囲気がピリピリしているというか、一触触発というか、ある種の最前線ですよね。人が単純に心穏やかに生きられる場所ではなかった。そういう精神的な「際」の場所を訪れることは、僕にとって非常に重要でした。今回の旅は、ダラムサラから始めたんですよ。そこから日本と行ったり来たりしながら回っていって、最後をカムにしたんです。前の旅を終えるきっかけになったカムを最後に訪れることは決めていたので。
——竹沢さんが個人的に気に入った地域はありましたか?
竹沢:僕が気に入ったのは、スピティですね。その北のラダックも奥の方まで行くといいと思いますが、ラダックには空港がある影響がやっぱり大きいですよ。観光客もたくさん入ってきますし。スピティは観光客もそんなに来ないし、国境紛争にもそれほど関係ないし、チベット文化圏で一番平穏に暮らしている人たちがいる場所なのかもしれないですね。
次回のインタビュー中編では、竹沢さんが取材した各地で遭遇した数々の出来事と、その中で見出した「祈り」の生まれてくる場所について、引き続きお話を伺います。
竹沢うるま Uruma Takezawa
1977年生まれ。同志社大学法学部法律学科に在学中、沖縄を訪れたことがきっかけで、写真を始める。その後、アメリカ一年滞在を経て、独学で写真を学ぶ。卒業後、 出版社のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年より写真家としての活動を本格的に開始。2010年〜2012年にかけて1021日103カ国を巡る旅を敢行。帰国後、写真集『Walkabout』と、対となる旅行記『The Songlines』を発表。その他、詩人谷川俊太郎との写真詩集『今』、キューバ写真集『Buena Vista』などの著書がある。2014年に第3回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリを受賞。
http://uruma-photo.com/
写真集『Kor La -コルラ-』
2016年10月1日発売
小学館
3400円+税
https://www.amazon.co.jp/dp/4096822310/
『旅情熱帯夜 1021日・103カ国を巡る旅の記憶』
2016年11月11日発売
実業之日本社
3300円+税
https://www.amazon.co.jp/dp/4408630187/
聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
http://ymtk.jp/ladakh/