【写真家・竹沢うるまさんに聞く:後編】期待と不安で眠れない旅人の心の揺れを詰め込んだ『旅情熱帯夜』
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    2016.11.02

    【写真家・竹沢うるまさんに聞く:後編】期待と不安で眠れない旅人の心の揺れを詰め込んだ『旅情熱帯夜』

    ——この『旅情熱帯夜』は、どこそこに行って感動しました、といった類の旅の情報を紹介している本ではないですよね。

    竹沢:この本には、どこがどういう場所で、という説明のようなものは全然入れていません。地名や言葉は、自分で調べないとわからないものも多いと思います。ある意味、この本は深く考えずに読んでほしいんです。

    ——眠れない夜にこの本を手に取って、めくって読んでいるうちに、ますます寝付けなくなる、みたいな。

    竹沢:たぶんそうなりますよ(笑)。これを読んだら眠れなくなる。単純にぱらぱらとめくって、読みながら旅に浸ってもらえれば、それでいいです。

    ——この本を作っているうちに、当時の生々しい感覚がふっと甦ってきたりはしましたか?

    竹沢:それはありましたね。リアルでしたよ。前に作った『Walkabout』と『The Songlines』は、あの旅から抽出したエッセンスなんですが、『旅情熱帯夜』は本当に雑多で、つじつまも合わなくて、混沌としていて、言ってることもめちゃくちゃかもしれない。でも、それがリアルなんですよ。僕としては、こっちの方が旅の思い出が甦りますね。『旅情熱帯夜』は、写真家としてというより、旅をする人間としての本、と思ってもらった方がいいかな。これは、ナマモノです。一応、本としての体裁は整えましたけど、できるだけナマの味を損なわないようにしたので、どうぞ、という感じですね。

    ——『旅情熱帯夜』の制作を通じて、あらためて当時の旅をふりかえってみて、いかがでしたか? ああいう旅をいつかまた……。

    竹沢:いやいや、僕はもうそういうことをしようとは思っていないし、あの旅を比較対象として捉えようとも思っていません。比較として捉えた時点で、残りの人生は不幸になるしかないので。僕は今まで、旅というもの自体に向き合ったという自覚はないんです。単純に、行きたいから行って、帰ってきました、というだけ。これからも、単純にどこかに行きたいと思ったら気持が落ち着かないから行ってしまうだろうし、でなければどこにも行かないだろうし。僕は、旅というものを自分の作品作りの際に意識したことはないんです。単純にそこにそれがあるから、そこまで旅をしているだけです。

    ——ただ、竹沢さん個人の作品とは少し異なる位置付けで、この『旅情熱帯夜』のような本で旅の熱量みたいなものを読者に届けるというのは、非常に意味のあることなんじゃないかなと思います。これを読んで旅に出ようと思い立つ人もいるでしょうし、あるいは、経済的な理由や健康面の不安などで旅には行けないけれど、この本で旅の気分を味わって楽しもう、という人もいるかもしれません。

    竹沢:そうですね。今や、情報を伝える役割はインターネットが主ですから、じゃあこの本って何なの?と考えると、旅情だったり、熱帯夜の空気感だったりを閉じ込めたものですよね。それを本を通じて心の中に取り込んでもらうことで、その人の何かが変わるなら……悪い方向に行かせたらダメですけど(笑)、より豊かに生きてもらえる方向にちょっとでも関わることができるとすれば、本を作った本人としては非常に幸せなことですよね。これを読んで幸せになってほしいとは言いたくないですけど、読んでくれた人の人生に少しでも関われたのであれば、僕が苦労して旅した意味も、少しはあったんじゃないかな、と。

    ——最後に、写真集やこうした本を作るということは、竹沢さん自身にとってはどんな位置付けなんでしょうか?

    竹沢:本を作るのは、一つの儀式ですよね。人の心の流れやかたちというのは、目には見えない。そのすべてを残すことはできないけれど、できるなら、せめて一部分でも残しておきたい。僕にとって写真というのは、自分自身の存在証明なんです。竹沢うるまという人間が、この時代に確かに生きていた。その場所に立って、歩いて、何かを感じていた。その記録です。心の流れというのは存在証明ですから、それを目に見える形に還元する儀式が、本を作るということだと思います。

    ——これからも、写真を通じて、竹沢さんの思いや心の動きが描き出していくものを拝見させていただくのを楽しみにしています。どうもありがとうございました。

    竹沢うるま Uruma Takezawa
    1977年生まれ。同志社大学法学部法律学科に在学中、沖縄を訪れたことがきっかけで、写真を始める。その後、アメリカ一年滞在を経て、独学で写真を学ぶ。卒業後、 出版社のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年より写真家としての活動を本格的に開始。2010年〜2012年にかけて1021日103カ国を巡る旅を敢行。帰国後、写真集『Walkabout』と、対となる旅行記『The Songlines』を発表。その他、詩人谷川俊太郎との写真詩集『今』、キューバ写真集『Buena Vista』などの著書がある。2014年に第3回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリを受賞。
    http://uruma-photo.com/


    写真集『Kor La -コルラ-』
    2016年10月1日発売
    小学館
    3400円+税
    https://www.amazon.co.jp/dp/4096822310/


    『旅情熱帯夜 1021日・103カ国を巡る旅の記憶』
    2016年11月11日発売
    実業之日本社
    3300円+税
    https://www.amazon.co.jp/dp/4408630187/

    聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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