有史以前から人とともにあった火とナイフ。関わり方は人の数だけ。
ナイフ1本携えて、火の傍で数え切れないほど野営をしてきた人もあれば、
石を並べてかまどを作り、野食を楽しむ人もいる。
そんな、アウトドアを知り尽くした達人たちが想う、焚き火とナイフの流儀とは。
それぞれの美しい炎を眺めながら、耳を傾けてみよう。
CONTENTS
山の焚き火は道具のひとつ。生活の焚き火は遊びのひとつ
東京都心で育った亀田少年。釣具店に何時間も入り浸り、漠然と“ナイフっていいな〜”と憧れの眼差しで眺める日々。
「たしか、冒険倶楽部のワイルドボーイってやつだったかな。2000円ぐらいの安いサバイバルナイフだったんだけど、当時の僕には手が届かなかった。真ん中に穴が空いてたり(おそらく栓抜き)、ギザギザがあったり(ウロコ落とし用)して、とにかく格好よくて欲しかった」
小遣いを貯め、やっとの思いで手に入れたものの、とうとう使うことはなかった。
「そのころは釣りも狩猟もやってなかったからね(笑)。子供のころの僕にはオーバースペックだったんでしょう」
そして、大学時代は探検部に所属。沢登りとクライミング、ラフティングに没頭した。
「沢登りに焚き火はつきもの。濡れたジャージ(高校時代の)を干して焚き火の熱で乾かす。火があればお湯を沸かして冷えた体を温めることもできる。焚き火は楽しみというより、必要に駆られたものでした」
ナイフに対するような憧れはなかったものの、沢から上がったとき焚き火があると、ちょっと落ち着いた。
「なんとなく手持ち無沙汰のときは、暇つぶしにもいいし。いつの間にか野外にいるときは焚き火がセットになってたな」
亀田さんの焚き火術
薪には細い枝がたくさんついた枯れ枝を選ぶ。これ1本で焚き付けから火が安定するまで、ある程度の薪が揃う。
着火には牛乳パックとライター、小さなビクトリノックスがあればいい。
亀田さんがよく使うナイフ類。有次の洋包丁を釣りの際に必ず携えていく。スパイダルコはフォールディングにしては頑丈なので狩猟用に買ったが、今はお守りになっている。ビクトリノックスはハサミが活躍。枝切り用にはノコギリが必須。
焚き火台の大きさに合わせ、ノコギリで。
枝を切って薪を作る。
火種が下に落ちないよう、中くらいの薪を敷き詰める。
両脇に太めの薪を配置。
焚き付けになる細い枝をたくさん集める。「ポキポキいえばまあ、いける」。
真ん中に焚き付け用の枝をたくさん積む。
さらにその上に中くらいの薪を乗せる。
牛乳パックを細く切って火口(ほくち)にする。パラフィンワックスでコーティングされているからよく燃える。
焚き火の真ん中に押し込み火をつける。
休日は焚き火キッチンで午後のひと時を過ごす
チベットからベトナムへ。約5000kmを流れるメコン川全流降下プロジェクトに参加し、その降下記録をアウトドア雑誌に持ち込んだことがアウトドアカメラマンになったきっかけだ。
そんなエクストリーム系カメラマンも、休日には地元の海岸でのんびり焚き火を楽しむ。
「山での焚き火は道具のひとつだけど、プライベートの焚き火は完全に遊び。家の庭でもBBQやったりしてますよ」
今日は家族をキャンプでもてなすための焚き火の練習だとか。
「息子が3人いるけど、誰も一緒にやってくれない(笑)。うちでは焚き火が日常だから、珍しくもなんともないのかも」
料理をするには薪を燃やし、熾を作る。
火が消えそうなときのために、細い小枝を用意しておく。
亀田流焚き火キッチン。流木の即席カウンターが絵になる。
亀田流チャイの作り方
インドで買ったスパイスグラインダー。
チャイに欠かせないスパイスはカルダモン、クローブ、シナモン。
グラインダーで細かくすり潰す。
洋包丁でショウガをスライス。
お気に入りのパーコレーターでチャイをいれる。
摺りたてのスパイスの香りが堪らない。
焚き火の作法は服部さんに教わった
薪集めも火おこしも、道具としての焚き火でも遊びとしての焚き火でもさして変わらない。
「自分が楽しむだけなら、小枝がたくさんついた枝が数本あればいい。ポキポキ折れるように乾燥しているものならOK」
火おこし用の細い枝と薪用の中くらいの太さの枝、太い枝をノコギリで切り分けていく。
「失敗しないコツは細い枝をケチらないこと。師匠である服部文祥さんの教えです」
薪を積み上げたら、牛乳パックの着火剤に火をつける。もくもくと白い煙が上がる。これが落ち着いて透明の煙になってきたら、太い薪をくべる。熾火になったところでひと息つく。
「3年前、服部さんと一緒にインドに行ってから、チャイにハマっちゃって」
現地で購入したスパイスグラインダーでスパイスをコリコリと挽き、お湯でショウガと一緒に煮立てる。茶葉を加え、最後に豆乳を入れる。
「山では水と粉末クリームだけど、遊びのときはちょっと贅沢に。パンでも焼いて卵を落とせば、腹の足しになるよ」
山でのご飯は、たいてい、米と釣った魚のみ。これも悪くないが、家族をもてなすなら、このくらいしないと格好がつかない。最近つれない子供たちも喜んでくれるだろう。
「ここんとこ、山でも人の目が厳しすぎて、最小限の火しかおこせない。たまにはこんな風に炎を楽しんでみるのもいい」
タバコを吸わなくなってライターが消え、オール電化になってガスコンロが消える。普段の生活でもどんどん火を使わなくなってきた気がする。
「ちょっと前までは、畑のおじさんが草刈りのあとに燃やしたり、大工さんが端材で焚き火するのが当たり前だったのに、そういう景色が見られなくなるのってなんか寂しいな」
少年が大志を抱けるような、焚き火の炎が消えませんように。
焦げと燻煙こそが最高のスパイスに。亀田流「焚き火トースト」
食パンの真ん中を四角く切り取る。
小房に分けたブロッコリーとソーセージをスキレットで炒める。
パンを投入。真ん中に卵を落としたら、切り取ったパンで蓋をする。
ひっくり返して両面焼く。
塩をふり、チャイとともにいただく。キャンプの朝食に最適なデキ。
拾った流木を削ってヘラでも作ってみる。
狩猟用だったナイフが、木工用に変身を遂げた。
ときにはバーナーも。急いでいるときはこれに限る。
亀田さんの焚き火の流儀
- 一、焚き付けは山のように集める
- 二、山で疲れたら甘いチャイを飲む
- 三、炎にも人にも無理強いしない
アウトドア写真家・亀田正人さん
山岳専門誌やアウトドア雑誌を中心に活動。最近は雑誌の撮影だけでなく動画撮影も手がけ、作家・服部文祥氏のYouTubeチャンネルの撮影も行なう。ドッグタグ店も開業!
※構成/大石裕美 撮影/柏倉陽介
*亀田さんのドッグタグ店「sloppy」の詳細はこちら。https://sloppy.base.ec
(BE-PAL 2021年12月号より)