『土になる』
坂口恭平著 文藝春秋 ¥1,870
両手を土に突っ込んでみたら畑は別世界への入り口だった
縁あって農園主のヒダカさんを農業の師とすることになった著者は、野良猫のノラジョーンズという知己も得て毎日、故郷・熊本の畑に今も通う。本書は、畑を始めてから約3か月間に、何を考え自分がどう変わったか、どんな自分を再発見したかを日記形式でつづる。
著者は建築家だが、本を書き絵を描き曲を作り料理を作り編み物をして電話相談室を開き、そして野菜も作るという異能の持ち主だ。
しかし以前は自然が苦手で、躁鬱を抱えた苦しい時期も経験している。
ところが畑に通うにつれ、パステル画を始めとする著者の創作や好ましい人間関係は、すべて畑から始まっていることに気づく。
土には植物や虫や微生物や雨などあらゆるものが入っていて、土は日々変化している。
だが同時にそれは安定もしていて、著者は土のように生きたいとさえ思うようになる。土は、戻ってくるべき場所だったのである。
土から得られた穏やかで静かな喜びは、著者を植物のつるのように伸ばしているようだ。
次々にあふれ出てくる言葉には、読者としてはとまどいも感じるが、土と生きることの心地よさを共有することは十分にできる。
『田舎暮らし毒本』
樋口明雄著 光文社新書 ¥990
こんなことが起きたらあなたならどうする?
東京から山梨県北杜市に移住した小説家が、20年間に体験した困惑や怒りや確信をまとめた田舎暮らしの指南書。前半は楽しく悩む(?)移住の方法、ログハウスや薪ストーブの実用情報。
後半は、普通は想像できないが、もし起これば(著者の身には本当に起こった)苦悩せざるを得ない狩猟問題、電気柵問題、水問題などを赤裸々に語る。
田舎でのんびり暮らしたい人には、ぜひ一読を勧めたい。
※構成/三宅直人(BE-PAL 2021年12月号より)