還暦のシェルパ斉藤が「ケルビム」の自転車を17年ぶりにレストア!
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    2022.01.07

    還暦のシェルパ斉藤が「ケルビム」の自転車を17年ぶりにレストア!

    シェルパ斉藤と自転車

    北海道の礼文島に渡り、礼文島の西海岸を北端から南端まで歩いてから日本縦断の旅をスタートさせた。

    日本縦断するなら「ケルビム」の自転車で

    2004年の春、自転車をオーダーメイドした。東京の町田市にある今野製作所が手がける「ケルビム」というブランドのツーリングバイクだ。

    僕は24歳の夏に北海道から沖縄まで自転車で日本縦断をしている。そのとき使用した自転車が高校の先輩から譲り受けた古いケルビムのロードバイクだった。いつかまた自転車で日本縦断しよう、そのときはまたケルビムで、との思いがあり、最初の日本縦断から20年後にオーダーメイドしたケルビムのツーリングバイクで、北海道の礼文島から沖縄の与那国島まで走る旅をした。

    シェルパ斉藤と自転車

    鹿児島からフェリーを乗り継いで沖縄の与那国島にゴール。20年目の日本縦断の旅が完結した。

    自分の体型や癖に合わせて製作された自転車は、当然のことながらとても乗りやすかった。ショップで売られている商品ではなく、自分のために製作されたハンドメイドの品であることも誇らしくて、日本縦断を果たしたケルビムは僕の宝物になった。

    しかし、日本縦断を終えた頃から僕はロングトレイルを歩くバックパッキングの旅に傾倒していった。自転車の旅も続けてはいたけれど、輪行しやすくて手軽な折りたたみ自転車を使った旅が多くなり、ケルビムに乗る機会は減った。ケルビムは自宅のウッドデッキの壁に飾ったままになり、気がつけば、紫外線で一部の塗装が剥がれてしまった。

    ケルビムの自転車

    ケルビムの自転車のフロントフォーク

    そのケルビムを完全復活させることにした。どのような経緯があったのかは、『BE-PAL』2022年2月号の連載「シェルパ斉藤の旅の自由型」に詳しく書いたので、そちらを読んでもらいたい。

    今野製作所を訪れ、自転車の整備・改造を依頼

    十数年振りにわがケルビムを今野製作所に持ち込み、2代目の今野真一さんとスタッフの廣田さんにレストアの相談をした。

    ケルビム店内

    最優先は剥がれてしまったフレームの再塗装である。本来の色が赤だったし、還暦記念を兼ねているので、以前よりも深みのある赤に決めた。

    経年劣化したサドルやチェーン、ケーブル類はすべて交換、さらにタイヤとブレーキも思い切って変更することにした。

    わがケルビムのタイヤは、車輪の径が大きめで幅が細い700Cのサイズを装着している。ロードバイクと同じくスピードが出やすいのだが、一回り小さい650Cのタイヤを澤田さんに勧められらた。漕ぎ出しが速いし、乗り心地も良くて、ちょっとしたダートならシクロクロスバイクのように走れるとのこと。ツーリングバイクとしての幅が広がる気がして、ダウンサイジングを決めた。

    ディスクブレーキの利点とは

    そしてタイヤのサイズ変更に合わせて、ブレーキのディスク化も決断した。これまでのブレーキはトラディショナルなカンチタイプだったが、効きがイマイチだったし、ブォーンという不快な異音を発するブレーキ鳴きもたびたび起きた。雨の日はさらに効きが悪くなるし、濡れたブレーキシューが擦れて黒い液体が飛び散ったりもする。

    それらの問題を解決できるのが、ディスクブレーキである。最近はロードバイクでもディスクブレーキ仕様が増えているし、優良なパーツも出回っている。わがケルビムにディスクブレーキを装着するとなれば、フレームに台座を溶接する以外に、フロントフォークとフレームのリヤエンドの補強も必要となって費用がかさむ。でも金額で妥協して「やっぱりディスクにすればよかった」と後悔はしたくないので、ディスクブレーキをオーダーした。

    カンチブレーキやVブレーキなどは、リムをはさんで制動するため、タイヤの径に合わせた位置にブレーキを設置しなくてはならないが、ディスクブレーキはタイヤのサイズに左右されない。ディスクを装着したホイールであれば、700Cのタイヤも履けるし、20インチの小径のタイヤにも交換できる。実際にはタイヤのサイズを変更したりしないだろうが、自転車を自在にアレンジできる楽しみが加わる。

    気になるレストア費用は…

    費用は総額で約25万円。新しいロードバイクが買えてしまう料金だが、世界に1台だけの自分の自転車がさらにアップデートするわけだし、還暦祝いだからと家人を説得した。

    ケルビム今野製作所

    今野製作所の2代目であり、世界的に評価されているフレームビルダーの今野真一さん(左)とレストアを手がけてくれた廣田圭吾さん。今野製作所はNHK総合テレビの『超絶凄ワザ!』で「ゆっくりでも倒れずに進む自転車」を製作したこともある。ショップに展示されたオリジナルモデルを眺めるだけでも楽しい。

    レストアしたわがケルビムは惚れ惚れするくらい、美しかった。細いクロモリフレームがラグで溶接された姿は時代に流されない機能美を感じる。トラディショナルなクラシックデザインなのに、使われているパーツが最新かつ高性能であることにも満足感をおぼえる。一回り小さくなったタイヤも、フレームを補強して装着したディスクブレーキも見た目に違和感がない。

    ケルビムの自転車

    ケルビムの自転車

    ペダルを漕ぎだすと、わがケルビムは滑らかに回転して走り出した。乗りやすくて扱いやすい。小柄な僕には650Cのサイズのほうが合っていると思う。バランスがよくて、路面をしっかりとらえて走る安定感がある。

    動きや仕組みが可視化されているのが自転車の魅力

    ディスクブレーキの性能も良好だ。タッチが柔らかく、手の軽い動きでブレーキをコントロールできる。思うがままに自転車を制動できる感覚に浸れる。自動車やオートバイでもいえるが、速く走ることよりも確実に止まれることのほうが公道を走る乗り物として大切なんだとあらためて思った。

    ケルビムの自転車、ディスクブレーキ

    ケルビムの自転車、ブレーキ

    MTBなどでは油圧のディスクブレーキが主流となっているが、ワイヤーで引っ張ってブレーキが作動する仕組みが好きだからワイヤータイプのディスクブレーキをあえて採用した。自転車の魅力は、電子制御された自動車とは違って、動きや仕組みが可視化されている点にあると個人的に思う。

    ケルビムの自転車、スタンド

    ついでにセンタースタンドも装着してもらった。通常は自転車を壁などに立てかけているが、ちょっとしたときにスタンドがあると便利。左右均等の重さの荷物を積めば、ツーリング中もセンタースタンドで自立する。

    自転車にもバックミラーは欠かせない

    今回のレストアとは関係ない余談になるが、僕は所有している5台の自転車、すべてにバックミラーを装着している。

    自転車は車道走行が原則だ。常に自動車に追い越される立場にいる自転車が車道を走るうえで、バックミラーは欠かせない装備だと僕は思っている。

    たとえば前方の道路にクルマが止まっているとしよう。そのクルマをパスするとき、道路の左端を走っていた自転車は道路の中央に寄らなくてはならない。後ろを振り向いて後続車の状況をチェックすることになるが、その間も自転車は前進している。後ろを振り向くことでバランスを失う可能性だってある。でもバックミラーだとチラ見だけで済む。道路上の危険要素を減らせる。

    道路交通法では前照灯、反射板(あるいはテールライト)、ベルの3点が自転車の保安部品として装着を義務づけられているが、改めるべきだと思う。歩行者には鳴らすことができず、警笛鳴らせの標識のある場所でしか使う必要がないベルよりも、車道を走るならバックミラーの装着を推奨すべきだ。

    自転車のバックミラー

    バックミラーはベルと同じく簡単に装着できる。車道を走るサイクリストはぜひ装着してもらいたい。

    自転車でしか出会えない特別な風景がある

    最後に、レストアしたケルビムで出かけた上高地のとっておきの写真を紹介する。

    上高地の河童橋と自転車

    バスやタクシーが1台もない上高地バスターミナルと、誰もいない河童橋は滅多に見られない特別な風景だ。

    上高地河童橋

    詳しくは『BE-PAL』2022年2月号「シェルパ斉藤の旅の自由型」を読んでください。

    シェルパ斉藤
    私が書きました!
    紀行作家・バックパッカー
    シェルパ斉藤
    1961年生まれ。揚子江での川旅を掲載してもらおうと編集長へ送った手紙がき っかけで『BE-PAL』誌上でデビュー。その後、1990年に東海自然歩道を踏破する紀行文を連載して人気作家に。1995年に八ヶ岳の麓に移住 し、自らの手で家を作り、火を中心とした自己完結型の田舎暮らしを楽しむ。『BE-PAL』で「シェルパ斉藤の旅の自由型」を連載中。『シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅』ほか著書多数。

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