『THE WALL – CLIMB FOR GOLD』プレミア試写会 supported by adidasに出席した野中生萌。
女性トップクライマー4人の「東京2020オリンピック」への道を、2年に渡って記録したドキュメンタリー映画『THE WALL – CLIMB FOR GOLD』が完成。1月18日から動画配信サービスを通じて世界配信されます。出演者のひとりで「東京2020オリンピック」の新競技、スポーツクライミングの女子複合で銀メダルを獲得した野中生萌(のなか・みほう)選手に完全単独インタビューしました!
自分の強みは、「めげないこと」
――映画を観て、冒頭の「人が(いろいろなことを通して)経験することを、私はクライミングを通してすべて経験している」という言葉からぐっと引き込まれましたが?
「8 歳から始めてもう16年間、人生のほとんどでクライミングをやってきたので例えば友だちをつくること、人間関係について、困難を如何に乗り越えるか、成果が出なくてもトレーニングを続けるモチベーションを維持する方法は? とあらゆることについて、クライミングを通して学んできました。それでよくこう聞かれるんですよ。〝競技のために、普通の学校生活を送れなくて。犠牲にしている、という感覚はないの?”と。でも私にそうした感覚はありません。他の人とはフィールドが違うだけ。クライミングでいろいろなことを経験しているんだなと」
――試合にベストのコンディションで臨むために、いちばん必要なことはなんですか?
「……信じること、かな。いままでやってきたことを信じて当日はもう、やるしかない。そこで全力を出せるかどうか、最後は気持ちが勝つことに向かってないと絶対にいいパフォーマンスはできません。それで最後は、信じることが大事で。不安を埋めるために日々練習をしています」
――日々のトレーニングはどのような?
「いまはオフシーズンなのでそんなに上ってません。クライミングジムに週3日ほど。ボルダリングだと一日4時間くらいです。それ以外は筋トレ等をします。トレーニングのメニューによりますが、それが週1~2回ですね」
――目標は「世界一強いクライマーになること」とか。具体的にはどういうことですか?
「どんなものも登れる人、かな。それで強さを証明するために大会に出て勝つと。同じことのようですけど、考え方が逆というか……。強いって? というのをわかりやすく示せるのは、そうして大会に出て優勝することです。強い人であることを証明するために、大会に出る。そこで勝つ努力をしていると」
――他の選手より、自分が強いと思う部分は?
「逆境には強い、と思います。これまで、すべてがスムーズにきたわけではありません。ケガをしたり、成績もずっとよかったわけではなくて。困難なことがあればあるだけ乗り越えるし、めげない。そこが強味かなと」
――なにがあってもめげないコツは?
「いやこれはもう完全に、負けず嫌いな性格だからで(笑)。そういう状況に負けたくないんです。もちろん大会で負けるのも嫌ですけど、それで折れてしまう自分が嫌で」
質問に答える野中選手。
「オリンピックは通過点」
――「東京2020オリンピック」でメダリストになったことは、どのような経験でしたか?
「他の大会と比べ、オリンピックは関わる人の規模が違います。そこでメダルをとることができ、喜んでくれた人もとても多くて、そのことを実感しました。物理的に環境が大きく変わった、ということはないんですけど」
――それはきっとプレッシャーでもあったでしょうね?
「私に時間をかけてくださる人の熱量が違うんです。本当に多くの方が私にたくさんの時間とたくさんの労力を使ってくださる。それはもちろんうれしいことだし、自分も全力でやるんですけど、プレッシャーといえばそうだったのかもしれません」
――映画に登場したクライミング選手の中には、“オリンピックはゴール”という人と“スタートだ”という人とがいました。ご自身にとっては?
「通過点、かもしれません。オリンピックでメダルをとれたことはもちろん大きな出来事でしたが、オリンピックで勝つためにクライミングを始めたわけではありませんから」
――ではクライマーとしてのゴールは?
「強いクライマーになることです。いまでいうと競技なので大会に勝つこと。他にも山へ行って岩に登るクライミングもありますから、いろいろなことに挑戦していきたい。肉体的にも精神的にも強い人間になりたい。そこを目指しています」
――ご自身は8歳からクライミングを始めたわけですが、人生の早い段階で、それだけ心血の注げるものに出合う人ってなかなかいないですよね?
「いやあうれしいです。こんなに夢中で、ず~っとやってこれて。その熱量はどんどんどんどん大きくなっています。実際私の友達のなかには“やりたいことがない”という子もいます。だからダメとか、やりたいことがあるからいいという話ではありませんが、自分にそういうものに出合ったことは本当にスゴイことだなと」
――クライミングって身体の小さい幼い子の方が強い、わけではないのでしょうか?
「身軽さでいったらそうですね、小さい子は軽々登りますし。私の最初のスランプはそこでした。成長期で身長が伸びて体重が増えて、大変でした。でも子どもには強さがないんですよ」
――強さ、ですか?
「子どもは、課題の強度に耐えられる身体ではありません」
――年齢を重ねるとクライミングのどこが強くなるのですか? 頭の使い方が進化するとか、経験が増えることがプラスに?
「そうですそうです。経験値を積み、出来ることがどんどん増えていきます。クライミングは経験値が活きるスポーツでもあるんです。それは年齢と共に間違いなく増えていきます」
――いま感じるクライミングの面白さとは?
「やっぱり、登れたときの達成感だと思います。そのうれしさはもうハンパじゃないです。これまで出来てなかったものがずっと目の前にあり、それに挑み続けて挑み続けて、出来た。単純に出来なかったものが、出来るようになったわけです。それは本当に楽しいことです」
――その繰り返しだと、終わりがないですね?
「本当にそうです!」
『THE WALL – CLIMB FOR GOLD』
●監督:ニック・ハーディー ●出演:野中生萌選手、ヤンヤ・ガンブレット、ショウナ・コクシー、ブルック・ラブトゥ ●2022年1月18日から、Apple TV (iTunes) / Google Play / Amazon Prime Videにて動画配信スタート
取材・文/浅見祥子