アルプスのスキー大国オーストリア。人口の3分の1がスキーヤーで、スキーリゾート数は世界第5位という統計もあり、スキーは最大の国民的スポーツです。
日本にスキーを伝えたのはオーストリア人ということもあり、日本で使われているスキー用語は、ストックやシュプールなど、ドイツ語起源のものが多く、親しみがわきます。
ゲレンデを颯爽と滑りぬける子供たちの姿は、オーストリア人が皆通ってきた道。スキーを愛するオーストリアから、子供たちがスキーを学ぶ環境を紹介します。
スキーは何歳からどこで?
スキーをする両親を持つ子供の多くは、3歳になるとゲレンデデビューします。筆者の周りでも、週末や休暇ごとにスキー場に向かう家族が多く、親同士で、どのスキー場が子供向けか、設備や混み具合、レッスン等についての情報交換が始まります。
オーストリアはアルプス山脈のイメージがありますが、首都ウィーン周辺は平野が広がっていることもあり、車で1時間ほどの日帰り用ゲレンデで滑るか、片道3時間かけて泊りがけでアルプスの巨大スキーリゾートに行くかの二択になります。日帰りゲレンデは、平日夕方のナイターや週末に人気で、一週間の休暇になると、アルプスまでスキー旅行に行く家族が多いようです。
子供用のスキーレッスンは3歳からありますが、基本的には親が子供を教えることが多く、ゲレンデでは父親と母親に挟まれて、ゆっくり滑る幼稚園児の姿がよく見られます。父親が後ろ向きに滑りながら子供を指導し、その後ろから母親がビデオを撮っている姿は、洋の東西を問わずほほえましいですね。
ファミリーゲレンデの設備
家族連れに特に人気なのは、大人用ゲレンデと切り離されたファミリーゲレンデ。山頂から一気に滑り降りる若者とすそ野で合流する危険が避けられ、安全が確保されます。また、子供向けとはいっても、スラロームコースや、タイムチャレンジ、凸凹コースなどのバリエーションがあり、初級から上級まで、全てのレベルで楽しむことができます。
ファミリーゲレンデは、子供たちの天国。「魔法のじゅうたん」という愛称で親しまれる動く歩道(スノーエスカレーター)は、雪や風除けのための幌がついていて、全天候型のものが人気です。レンタルショップやレッスン、レストランや子供用トイレ、巨大な遊び場やゆるキャラまでそろっていて、一日楽しく過ごすことができます。
スノーエスカレーターを卒業すると、Tバーリフトに乗って、子供用ゲレンデの中級コースに上がることができます。オーストリアではリフトよりTバーがメジャーで、未就学児でもコツをつかむとすぐに一人で利用できるようになります。
ギアはレンタル? 購入?
ファミリーゲレンデでは、子供用のスキー板や靴、ヘルメットなどのレンタルも充実しています。最新式の整備されたカービングスキーや、有名ブランドの板と靴を、安価でレンタルできます。一方、レンタル時のサイズ調整や待ち時間を避けるため、靴や板を購入する家庭も多く、多くの小学生が自分の板と靴を持っているようです。
また、オーストリアのほとんどの州で、14歳未満の子供はヘルメット着用義務があり、これもレンタルが可能です。
スキーレッスンのコツとは?
基本的には、親が子供を教えることが多いオーストリアですが、最新のフォームを確認したり、プロの教え方で上達を早めたりするために、レッスンが利用されます。
スキーレッスンを見ていると、どのコーチも必ず言うセリフがあります。プルークボーゲンを練習している子には「ピザ!」、板をそろえる練習をしている子には「スパゲティ!」。どちらも子供が大好きな料理ですが、何を意味しているか分かりますか?
ボーゲンの場合には、板をハの字に開く必要がありますが、この形が切ったピザに見えることから、「大きなピザの形に板を開いて!」と教えています。板をそろえる時には、二本のスパゲティを伸ばした様子をイメージします。子供たちの大好物だけに、連想しやすいですね。
まとめ
こうやって、スキー上級者の親に手取り足取り教えられつつ、最新式の技術をレッスンで取り入れた子供たちは、ゆくゆくは親以上のスキーヤーになり、また次世代にスキー文化を伝えていくのでしょう。ファミリーゲレンデは、こうやって何世代も親から子へと受け継がれてきた、スキーを愛するこの国の国民性を象徴しているようですね。
オーストリア・ウィーン在住ライター(海外書き人クラブ会員)
3児の母。世界45か国を訪れ、『るるぶ』(JTB出版社)、阪急交通社、サライ.jp等にオーストリアの自然や文化記事を寄稿&提供する他、ラジオ出演や歴史監修も。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。