おおいぬの鼻先に全天一明るいシリウス。ヘソに一番明るい2等星
前回は、オリオン座のギリシャ神話のエピソードをご紹介しました。今回は、オリオンとともに冬の大三角形を構成するおおいぬ座と、こいぬ座のエピソードをご紹介しましょう。
冬の星座の王者といえばオリオン座ですが、星の王様と言えば、おおいぬ座のシリウスです。全天で一番明るい恒星です。オリオン座の全ての1等星と2等星の明るさを足し合わせて、ついでにこの後で紹介する1等星プロキオンの明るさを加えても、シリウスには及ばないほど、圧倒的な輝きです。おおいぬ座の形はよく見えなくても、シリウスはすぐに見つけることができます。
人間の歴史上、重要なのは、冬のシリウスより夏のシリウスかもしれません。古代エジプト時代には、日の出前に昇るシリウスは、ナイル川の氾濫の時期を告げる徴でした。ちょうど夏至のころ、夜明け前に昇ってくるシリウスは夏の到来のシンボルなのでした。英語に暑い夏の日々を表す「dog days」という表現がありますが、これはシリウスが「犬の星」と呼ばれていたことに由来します。
この大きな犬は、狩人オリオンの猟犬という説が有力です。ただ、これには諸説あります。前回ご紹介した狩りの女神であり月の女神でもあるアルテミスが連れていた猟犬であるとか、オリオンとは別の狩人アクタイオンの猟犬であるとか、飼い主はどうもはっきりしません。
そして、あまり知られていませんが、おおいぬ座には全天で一番明るい2等星があります。大犬のヘソのあたりに光るアダラという星です。等級は四捨五入なので、光度が1.5等以下なら2等星、それより明るい星が1等星。アダラはちょうど1.5等なのでギリギリ2等星になります。あと0.01等でも明るければ1等星になれました。
冬の星空には、ふたご座の兄のカストル、オリオンの三つ星など目立つ2等星がありますが、実はアダラの方が明るいのです。カストルやオリオン座より低いため目立ちにくいのですが、シリウスのほぼ真下に視線を下ろしていけばアダラは見つかります。
全天で一番明るい恒星シリウスと、一番明るい2等星を宿すおおいぬ座。この冬は澄み切った空に、ぜひ、大きな犬を探してください。
小犬のマイラは、大犬より凶暴だった?
次に、プロキオンを擁するこいぬ座に行きましょう。
プロキオンはシリウスより少し前に昇ってくることから、「先行するもの」という意味があります。冬の大三角形になくてはならない星座ですが、小さく、また、線を結んでも形がわかりにい、どうしても小犬にはならないため、星座としてはあまり注目されていないかもしれません。
こいぬ座にもギリシャ神話の由来があります。大犬と小犬なので親子犬かと思われがちですが、神話の中では特に親子性を示すものはありません。おおいぬ座と同様、オリオンの猟犬説もありますが、一番有名なエピソードは、ある男とその娘と飼い犬の物語です。こんなお話です。
イカリオスという男が、彼の住む地を訪れたお酒の神様ディオニソスをもてなしたお礼に、ワインの造り方を教わりました。イカリオスはその通りに造ったワインを皆にふるまおうとしました。しかしお酒という概念を知らない人びとは酔っ払うと、「なんだこの不快感は! 毒じゃないか!」と激怒。荒れ狂った勢いで、なんとイカリオスを殺してしまいます。それを見ていた神々が哀れに思い、イカリオスと、その娘と飼い犬を空に上げたという話です。そして、この飼い犬の名がマイラ。こいぬ座の前身です。
イカリオスはうしかい座に、娘はおとめ座に、そしてマイラはこいぬ座に。うしかい座とおとめ座は春の大三角形を成す星座です。それぞれアルクトゥールス、スピカという1等星を持っています。なぜかマイラだけは冬の季節に上げられてしまい、こいぬ座として冬の大三角形の一角を占めています。
もうひとつ、こいぬ座にはよく知られたエピソードがあります。
オリオンとは別の狩人アクタイオンの猟犬だったという説です。ある日のこと、森で狩りをしていたアクタイオンは、あらぬものを目にしてしまいます。池で水浴びしていた女神たちの裸身を見てしまったのです。怒った女神たちは、その場でアクタイオンを鹿の姿に変えてしまいます。そこへ戻ってきた彼の猟犬が、鹿を主人とは知らず噛み殺してしまうのです。なんと残酷な話でしょうか。そんな凶暴な犬があのこいぬ座のモデル?ですけど。
2回にわたって、冬の大三角形を成す、オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座のエピソードをご紹介してきました。冬の夜空を華々しく彩る星座ではありますが、エピソード的には案外、こぢんまりとしています。
オリオンの足元にうずくまっているうさぎ座も気になります。オリオンが踏んづけてしまったのか、大犬が仕留めたのか?昔の文献には、オリオンの猟犬が追いかけるうさぎだという説もでてきます。冬の夜空に、みなさんの想像で好きなストーリーを描いてみてください!
構成/佐藤恵菜