3Dプリンター成形技術がサドルの理想をぐっと近づけた
街中や峠道を軽快に走り抜けるロードバイク。選べるフレーム素材や、数々のマニアックなパーツ々など、部品の選択肢が広く趣味性が高い。そのなかでも重要なのは、乗っている人間とコンタクトするハンドル、シューズ、サドルの3点だ。とくにサドルは体重の多くを受け止めるため、自分好みのものが見つからず、何度も買い替えたという話もよく耳にする。
サドルの形状がお尻に合わず痛みが伴うケースもあり、”サドル探しの旅”は暗礁に乗り上げることも多い。買ったはいいが身体に馴染まないとわかったとたんに、「サドル側がお尻の形状に合わせて変形してくれたらな…」と妄想だけが膨らむ。が、そんな無茶な願いを叶えるサドルを遂に手にすることができた。それは、なんと3Dプリンターによって成形されたサドルだ。その座り心地を体験レポートしたい。
ところで自転車でお尻が痛くなる原因とは?
サドルでお尻が痛くなる原因は2点。ひとつはライディングポジションだ。ママチャリをはじめとするシティサイクルでは、少し起き上がった姿勢でお尻を「どかっ」と乗せて走る。そのため、お尻の広い面がサドルに接触することとなる。一方ロードバイクなどのスポーツ車は、速く走ることのできるポジションゆえ、身体は深く前傾し、体重を坐骨とサドル上の2点で支えることとなる。骨盤の角度によっては坐骨周辺の神経が圧迫され、痺れや痛みを感じるリスクが高まるのだ。
もうひとつの原因はサドルの硬さにある。サドルを柔らかくすればある程度痛みの問題は低減されるものの、柔らかすぎるとお尻がサドルの上で動いてしまうため、結果ペダルを漕ぐ力がロスされてしまう。従ってスポーツ車のサドルは硬いことが多い。この硬さも痛みの原因となりやすい。スポーツ車歴が長い人は、サドルに乗せるべき坐骨の位置や骨盤の角度などを意識して走れるが、ビギナーにはそれが難しいようだ。
スポーツサイクルの人気ブランドが贈る画期的なサドル
私が今回手にしたのは、「SPECIALIZED(スペシャライズド)」の「S-Works Power with Mirror」という製品。同社は、アメリカの自転車メーカーで、日本を含むアジア、ヨーロッパ、南米など世界28か国にオフィスを持つグローバルカンパニーだ。近年は自転車の本体やパーツの販売だけでなく、3Dモーションキャプチャを利用したフィッティングサービスを提供しており、そこから得た多くのデータは、このサドルなどのパーツの設計にいかされているそうだ。
サドルのパット部分は、一般に革やウレタンで作られている。しかし、このサドルは、液状ポリマーを3Dプリント加工したハニカム構造になっている。サドルの位置によって細かく密度を変化させることで、設計者が狙った柔らかさを完全に再現しているのだ。指で押してみると、部位によって弾力が異なることがわかる。では、肝心なサドルの座り心地はどうだろう?
未知のサドルを自分の自転車に取り付けテストした
まず、座った感触としては「少し柔らかめだが普通のサドルと変わらない」という印象だった。表皮が通常のものよりグリップするため、お尻を固定する力が強くブレにくい感覚はあったが、それ以外特別な感覚はなかった。ただし、力強く踏み込んだときには、3Dプリントされたパット部がグッと沈み込み、坐骨周辺を優しく包み込んでくれる。これは新しい感覚だ。おそらく、設計段階でペダルを漕ぐ際のブレとクッション性のバランスを最適化した結果と想像するが、まさかサドルに開発者の「味付け」を感じるとは思ってもみなかった。
いままで同型の通常版「Power Expert」というサドルを使っていたが、長時間強い力で踏み込むとお尻の周辺が痺れを感じていた。ポジションが崩れているのが原因だと思うが、今回のサドルの場合、長時間でも痺れも痛みも伴わなかった。これはまさに、サドルが私の坐骨の形状に合わせて変形してくれた結果だろう。楽しいサイクリングも痛みが伴うと気分が下がってしまうが、これなら集中してペダルを漕ぎ続けられるし、サドル探しの旅から解放された気分だった。
お尻に合わせて形状変化する。これは究極のハイエンドモデルだ
この「S-Works Power with Mirror」の魅力は、3Dプリントによる成形のみならず、軽量化のためサドルのシェルやレールはカーボン製となっている。ハイエンドモデルだけあってお値段は決して安くはないが、これでお尻の痛みが解決されるなら良い投資だと思う。ロードバイクに乗りはじめて、サドルに悩みを抱えている人にとっては、救世主となるに違いない。
商品情報
SPECIALIZED(スペシャライズド) / S-Works Power with Mirror
重量:約190g
価格:55,000円
https://www.specialized.com/jp/ja