南が開けた山の上か、南向きの海岸で見るのがベスト
冬の夜空には全天で一番明るい恒星シリウスだけでなく、2番目に明るいカノープスもあります。ただ、南天の星なので、日本からでは仙台以北では見られません。東京からでも、南の地平線もしくは水平線が開けたところで観察できたとして、最高1.6度(都心部)までしか昇りません。
古代中国では「南極老人星」と呼ばれ、見れば長生きできると言われた星です。それだけ見るのがむずかしく、見えたらラッキーということかもしれませんね。だからこそ天文ファンのみならず、みなさんにも一度、見てほしい星です。
地平線ぎりぎりではありますが、カノープスは真冬の空気の澄んだこの季節、20時ごろが見頃です。なにしろ見にくいところにありますから、事前に星座ソフトなどでアタリをつけておくことをおすすめします。
観測場所としては、たとえば東京近辺なら高尾山頂など南の地平線が開けている所。相模湾など南の水平線が開けている場所のほうがより確実です。私も房総半島で水平線上にカノープスを確認したことがあります。
探し方ですが、おおいぬ座を目印に探しましょう。おおいぬの前足の星と後ろ足の星を結んで南の方へ伸ばしていきます。かなり伸ばさないとカノープスまでたどりつきません。目安としては、ふたご座のポルックスとオリオン座のベテルギウスを結んだ線よりも長いと思ってください。
もうひとつ注意があります。全天で2番目に明るい1等星ですが、観測するときは1等星という先入観は持たないでください。せいぜい2〜3等星にしか見えません。地平線に近づくほど、光は大気の層を長く通らなければならなくなり、せっかくの1等星も赤く暗くなってしまうのです。夕陽が赤く見えるのと同じ原理です。南極老人星と呼ばれるのは、赤く見えるせいでもあるでしょう。
実際のカノープスは白い星です。南半球に行けば、シリウスよりは暗いものの、白く明るく輝いています。余談ですが、シリウスは地球から約8光年の、比較的近くにあります。一方、カノープスは300光年くらい離れたところにあり、星自体の明るさはシリウスよりカノープスのほうがはるかに上です。それだけカノープスは大きな恒星です。質量は太陽の8倍くらいある立派な巨星です。大きな星ほど寿命は短いので、長寿を司る星とされながら星自体は短命となる宿命です。
雄大なアルゴ船が解体されたわけ
カノープスが属す星座は「りゅうこつ座」と言います。竜骨と書き、船首から船尾まで船底を貫く重要な柱のことです。
上の画像を見てください。カノープスは船の形をした星座の中にあります。この船はギリシア神話に出てくるアルゴ船という船です。このあたりにあった星座は、以前はアルゴ座という巨大な星座でした。近代になって、ラカイユという天文学者が便宜上、アルゴ船を竜骨、艫(とも)、帆に分けて観測し記録をつけていたようです。さらに近くに「らしんばん座」を新設しました。それが1922年、国際的な天文会議で現在使われている「全天88星座」を決める際に採用され、アルゴ船は事実上、解体されてしまったというわけです。
ギリシア神話の中のアルゴ船は、黄金の羊毛を探す冒険に行く勇者たちを乗せた立派な船でした。その冒険にはヘルクレス座のヘルクレス、ふたご座のカストルとポルックスなど、星座でおなじみの有名人が何人も搭乗しています。
1等星のワンツースリーを見るなら那覇より南へ
日本ではカノープスのほかに注目されることもないりゅうこつ座ですが、アルゴ船も全体像が見えるわけではありません。せっかくカノープスが見えても、地平線ギリギリに昇ってくるアルゴ船はほとんど座礁しているようにしか見えません。もちろん南半球で見れば、ゆったりと天空を航海中のアルゴ船です。
日本では沖縄までいけば、ほとんど減光されていないカノープスがシリウスとワンツートップで輝くのが見られます。さらに、全天で3番目に明るい1等星、ケンタウルス座のα星も見えます。時節柄むずかしいものがありますが、もしも沖縄より南へ行ってひと足早い春を楽しめたら……もう十分にラッキーですね。
構成/佐藤恵菜